第3話 5秒遅れた

私は守護霊協会から臨時の依頼を受けた。


任されたのは、ビルの屋上に立つ45歳男性Qだ。


内情は聞かされなかったが、緊急でこのような憑き方もある。


Qは、金網にへばりついた状態で、ビルの下をチラチラ見ている。


私は、基本的に何もできない。


Qの意識に少し刺激を与えるか、近くにいる動物をコントロールするくらいだ。


Qは飛び降りる気がないと、私は判断した。


よく見ると、金網には命綱がかかっていたからだ。


ビルの下には人だかりが出来始めた。


すると、ビルの下から、守護霊Mが登ってきた。


「おい、お前が遅刻したから、お前の担当が落ちちまったじゃないか!」


「え?私の担当はこのQですよ。」


「違う!Qはオレが担当してたんだ。今下に落ちた奴は、ここでQと一緒にYouTube撮ってたんだよ。落ちた奴についてた守護霊Sはトイレ休憩に入っちまったもんだから、協会がお前さんを呼んだんだよ。」


「それは、知らないですよ。こんな時にトイレ休憩とる方がおかしいじゃないですか。そもそも、守護霊がトイレにいくんですか?」


「気持ちの切り替えは必要なんだよ!この仕事はストレス溜まるんだからさ。」


「でも、今回の事故は誰の責任になるんですか?明らかに守護霊Sが仕事放棄してますよね。」


「まぁな、本当のこと言うと、お前さんが来てからトイレに行くべきだったんだよ。でもな、Sの奴、下痢気味でさ、我慢しているのが辛そうで、オレの判断で行かせてしまったんだ。落ちちまった奴には申し訳ないんだが、守護霊も生理的現象には勝てなかったんだよな。」


「緊急事態の時は、もう一人欲しいですよね。もしものことを考えるとこの体制では無理があります。私から協会に伝えますか。」


「いやいやそれはまずい。下からの提案は、協会が一番嫌がる。お前さんが5秒遅れたということで、遅刻罰金が妥当だと思う。」


「それじゃ、私が損じゃないですか。」


「罰金を取られるが、臨時手当はその倍つくから、損はしないから・・。」


「そうですか、仕方ないですね。で、トイレに行かれたSさんはどうなるんですか。」


「あいつは、時間休暇取ったから何も無い。」


「時間休暇取る余裕あったんなら・・・私が来る時間待てた気はしますけどね。」


「俺ら守護霊だけど、やっぱり、自分を守ることで精一杯なんだよね。」






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