嘘との付き合い方

第26-1話 「それなら俺も……」

 朝教室に入り一番に俺が視線を向けたのは椎川だった。


 問題なく登校しているとはいえ先週の椎川は体調を崩していたので、今日は本当に体調が悪くないかどうか心配になったのだ。


 ……いや、それもあるが俺が椎川に視線を向けた一番の理由はそれではない。椎川から保健室で受けた謎の質問である。


 なぜ椎川は急に、うるはを好きか、と質問してきたのだろうか。


 その理由を考えると、俺とうるはの関係性に疑問を抱いた椎川がその真相を確かめるべく俺に質問をしてきた、ということになるのだろうか。

 とはいえ、俺とうるが付き合っていないという事実が漏れてしまうとは考えづらい。


 その秘密を知っているのは橘とうるはくらいで、どちらも俺の秘密をバラすとは思えない。


 だとすると、椎川が俺に、うるはのことが好きか、と質問してきた理由は闇に包まれたままである。


 考えれば考えるほど真相から遠ざかっているような気がするが、変に怪しまれるのも良くないのでとりあえずいつも通り椎川に声をかけてみることにした。


「おはよ。もう体調は大丈夫か?」

「お、おはよっ。体調? だ、大丈夫だよ別に昨日だって悪かったわけじゃないしね?」


 ……ん? なんだ今の反応は。

 椎川はなぜか俺と目を合わせず、目線を逸らしたまま俺に返事をしてきた。


 よく見ると、顔が赤いように見える。


「おい、お前まだ体調悪いんじゃないか?」

「そ、そうかな⁉︎ 自分ではそんな気がしないんだけど……」

「昨日も同じこと言っただろ。体調悪い奴は大体そうやって……」

「そうだよね⁉︎ あ、そ、それじゃあ私自分で保健室いってくるね⁉︎」


 やはり体調でも悪いのか、ただ俺が話しかけているだけなのに、気が動転した様子で頭が働いていないように見える。


「それなら俺も……」

「いや、本当に1人で大丈夫だから‼︎ 大丈夫だからぁ‼︎」


 結局椎川は保健室に行くと言って目線を合わせることなく俺を放ったらかして教室を飛び出していってしまった。


 何が起きたか理解できない俺は呆然としていたのだが、この一部始終を目撃していた橘が声をかけてきた。


「どうしたお前。椎川さんに嫌われたか?」

「いや、嫌われるようなことをした記憶はないんだが……」

「運命の人に嫌われるなんてお前も可哀想な男だよ」

「こないだも言ったけどな、椎川には彼氏がいるから俺の運命の人には絶対にならないぞ」

「さぁ、どうだろうな」


 橘がやたらと俺の運命の人を椎川にしたがる理由はわからないが、その後椎川は自分の席に戻ってきて、それ以降はいつも通り普通の椎川のまま授業を受けていた。

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