第15-2話 「もう生きていけない……」

「お願い陽彩。私の彼氏のフリをして‼︎」


 弟の部屋に無理やり押し入り、了承してくれるわけがないとは思いながらも私はすぐさま額を部屋の下にひかれた絨毯に付けた。


「な、なんだよ急にそんな必死にお願いしてきて。姉が弟の前でそんなに簡単に額を床につけるなんて姉ちゃんにはプライドってもんがないのかよ」

「それくらい誠意を見せなきゃ協力してもらえないかと思って」

「別に兄弟なんだから、犯罪に手を染めるようなことじゃなかったら協力するよ」

「陽彩……」


 まだ内容を言ってはいないとはいえ、まさか陽彩がそこまで協力的な発言をするとは思わなかった。


 こんなに聞き分けの良い弟を持ててお姉ちゃん幸せ……。


「それで、お願いってなんなの?」

「友達を騙したいから、私の彼氏に……」

「嫌だ」

「……」

「……」

「嘘の……」

「嫌だ」

「え、でもさっきなんでも協力するって」

「なんでもとは言ったけど流石に限度があるだろ‼︎」


 流石に無理なお願いだと言うのは理解していたが、先程まで協力的な発言をしていた陽彩の態度が急変してしまった。


「お願い‼︎ 陽彩しか頼める人がいないんだよ‼︎」

「嫌だよ彼氏のフリするなんて‼︎ 大体俺彼女いるし‼︎」

「別に私の友達にあんたが彼氏だって言うだけなんだからいいでしょ⁉︎」

「嫌だよ‼︎ なんで俺が姉ちゃんの彼氏のフリなんかしないといけないんだよ気持ち悪い‼︎」

「ええー。お姉ちゃん弟に気持ち悪いって言われたらもう生きていけない……」

「そんなんで生きていけなくなるわけないだろ‼︎ 

 大袈裟なんだよ‼︎」


 弟にはこう言っているが、正直嘘の彼氏として弟を選んだのはあまりにも悪手だったのではないかと理解している。


 そりゃ弟の立場からしたらいくら嘘でも姉を彼女だとは言いづらいだろうし、兄妹であるということがバレてしまったらそんな嘘はつくことができない。


 とはいえ、一度陽彩の顔を新谷んに写真で見せているし、誰か他の男子に頼むわけにもいかない。

 というか、他に頼める男子なんていない。


 このまま陽彩に断られてしまったら、私の嘘が完全に新谷んにバレてしまう。それだけは避けなければならない。


「頼むよ。一生のお願い‼︎」

「なんでそうまでして俺に彼氏のフリなんてしてほしいの?」

「ちょっと高校で彼氏がいるって嘘をついたら、それを嘘なんじゃないかって疑ってくる奴がいて………」

「な、なんでそんなことしたんだよ⁉︎」

「実は……」


 それから私は、私が彼氏がいると嘘をつき始めた経緯について、事細かに陽彩に説明をした。

 陽彩は私が中学時代にあまりにも暗い性格だったことを知っているので、その話についてスムーズに理解してくれた。


「そんな理由で彼氏がいるって嘘ついてたのか……。それ以外にも何か方法があったんじゃないの?」

「私だってこの方法が最善策だと思って嘘をつき始めたわけじゃないよ。でもこれ以外方法が思い浮かばなくてさ。実際彼氏がいるって嘘をついてからはいじめられることも無くなったし、今となってはこれが最善策だったんじゃないかなって思ってる」

「別にそんな嘘つかなくったって姉ちゃんなら上手くやれると思うんだけどな……」

「買い被りすぎだよ。実際中学だけじゃなくて高校に入ってからもいじめられてたわけだからな」

「姉ちゃんには杏樹だっけ? 仲良い友達もいるんだからなんとかなったんじゃないのか?」


 私だって、できることなら嘘はつきたくないし、上手くやれるなら上手くやりたいと思う。


 とはいえ、上手くやれなかったからこそ今のこの方法にたどり着いたのだ。今の私には、嘘をつくこと以外方法はない。


「まあ私だってずっと嘘をついてていいとは思ってないから。いつか嘘をつくのはやめてちゃんと生きられるようにならないとなって思ってる」

「まぁそう思ってるなら……とりあえず今回は協力するよ」

「よし、じゃあ明日、ダブルデートして」

「……へ?」


 私からの依頼に、陽彩は固まっていた。

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