10月20日 幼馴染みはお嬢様
今日はずっと好きだった君と久々に会える。そう思ってめいっぱい自分に出来るオシャレを頑張り集合場所に来た。道中全てのコンビニに立ち寄って髪型のチェックをしながら向かっていると危うく遅刻してしまいそうになった。集合場所は僕の地元の商店街の入口付近にある公園。小学校の途中で引っ越してしまった彼女はどうやらこの商店街の餅が食べたいらしい。
少し早歩きをして公園に着いて周りを見渡した。彼女はまだ来ていないらしい。
高校生にもなると公園に立ち寄ることなんて無くなってしまった。小学生の頃は毎日のように放課後は公園に集まって遊び全身砂だらけで帰ることも多々あったのに。そんな思い出を少し思いながら公園をぶらついていると後ろからドンッと衝撃。
「わぁっ! びっくりした?」
「もう何するんだよ、びっくりしたよ」
「ほんと〜? じゃあ大成功だ」
そう言ってえくぼを作りながら彼女は笑った。小学校の頃の面影を残したまま成長した彼女の姿に見惚れてしまっていた。
「もう朝ごはん少しだけにしてお腹空かせてきたんだ〜。ずっと楽しみにしてたの」
「僕もお腹がすいてたんだ早速行こうか」
そうは言ったが正直お腹は空いてなどいない。彼女とのデートなんて考えていたら朝食なんて喉が通らなかった。
「あそこのお餅屋さん行ったことあるー?」
「うーん。いつも通るだけで行ったことなかったな」
「えー、もったいないよー。せっかく近くに住んでるんだからもっと行ってよ」
「食べる機会が無くて」
「じゃあ私が初めてだね」
え。今、何て言った。
「あ! 着いたよ、ここなの」
いつの間にか餅屋の前に着いていた。一日に数回は店の前で餅をついて見せ、つきたてのお餅が食べれるとのことで地元の人達に愛される老舗だ。ちょうど僕達が着いた頃店の前では杵と臼が準備されていた。運がいい。
「あ、今からお餅つくみたいだね! つきたてのお餅楽しみ〜」
そう言ってぴょんぴょんと飛び跳ねながら少しでも餅つきを見ようとする姿がとても愛くるしい。
「よいしょー!」
勢いのある掛け声と共に餅つきショーが始まった。テンポの良いリズムでつき続ける職人に彼女は釘付けだった。いや、おそらく臼に入ってる餅に釘付けなのだと思う。二十分ついたあたりで販売の準備に入った。
「わぁ、どうしよう何食べよう。砂糖醤油にきな粉、磯辺焼き、待ってお雑煮にもしてる! 迷うなぁ、どうしよう。大翔君は何にするの」
「どうしようかな、どれでもいいなぁ」
「わかった、私買ってくるね!」
「あ、ちょっと待って」
言葉よりも先に彼女は人混みに飛び込んで行った。瞬く間に彼女の姿は見えなくなった。ふと視線を逸らすといかにも高そうな黒いスーツを着た体格の良い男性が人混みを割り込んで行こうとしていた。ああいう人も飛び込んでまで食べたくなるほどここの餅は美味しいのかと呑気に考えていた。
「大翔君!」
勢いよく名前を呼ばれた。少し離れた位置に彼女が両手にビニール袋を持って立っていた。どうやら結構な量を買ったようだ。
「いやぁ、色々美味しそうだったからついつい買っちゃったよ。はいこっち持って、座れるところ行くよ〜」
少しスキップ気味の彼女について集合場所の公園に戻った。二人で食べる分には少し多い量の餅。しかし彼女はその半分以上を余裕で食べていった。
「すごい食べるね」
「だって美味しいんだもん」
餅のように柔らかそうな頬を動かして彼女は餅を次々と平らげていった。
「はぁ〜美味しかった」
満足気な表情を浮かべて空を見上げる彼女。その横顔をしっかりと心に刻む。
「あ、そうだお金、いくらだった」
まだ一銭も払ってないのを思い出した。
「あー。だいたい私が食べたから大丈夫だよ、ありがとう。そんなことより喉渇いちゃった。お茶買ってきてくれる」
「それくらい全然いいよ」
そう言って僕はコンビニに向かって歩き始めた。少し歩いて彼女の方を振り返ると先程の黒スーツの男性と何かしら話しているようだった。知り合いだったのか。
コンビニで適当にお茶を選んでいた。お茶と言っても様々な種類がある、彼女は一体どういうものが好みなんだろう。彼女の好みがわからず適当に有名な緑茶を四本買って公園に戻った。彼女はもうそこにいなかった。
「ごめんなさい。今日は先に帰ります。また誘ってください」
と手紙をベンチに残して。
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