第二思春期の胸の痛み
思春期と言えば、何かと多感な時期のことを言うが、思春期から十年たった、二十七歳の頃、第二思春期とも言えるだろう、二度目の多感な時期を迎えた。
無性にモテたい。異常に周りの目が気になる。変な想像をしだしたら行きつくところまで行ってしまう。なんとも困った内面を持ちながら、それを隠しながら生きていた。
ある日、どうしても、乳首に生えている、一本だけ長い毛が気になりだした。剃っても剃っても生えてくる。気になりだしたらきりがない。もう、仕事中にも思い出すぐらい。次第に、これのせいで、人生がうまくいかないんじゃないか、という考えさえ持つようになった。ああ、胸が痛い。これさえ克服すれば、僕はモテモテになる。日々の生活に自信が持てるはず、と思い始めた。
そんなとき、テレビショッピングで、ムダ毛の処理を行う機械が販売されているのを見た。
これだ! これさえ買えば、僕はバラ色の人生が待っている。
今回は電話番号とかメモする余裕がなかったが、次に放送されたら、即買いだ!ああ、素晴らしいタイミングでいい品物と出会えた。
次の放送はなかなかなかったが、数日間、いつか放送されると思って、仕事から独身寮へ帰ったら、同じチャンネルを、見たくもない番組が流れていてもずっと流し続けた。
ある日、あった!ムダ毛の処理を行う機械の販売!電話番号をメモメモ・・・値段は、二十六万円!給料二か月分。しかし、今後のバラ色の人生を思えば安いものだ。よし!電話だ。あ、でも独身寮の荷物は、寮母さんが代表して受け取るから、荷物の名称に『ムダ毛処理機』と書かれたら恥ずかしい。それを電話でちゃんと言わないと!
電話で注文し、到着を待つまでの間、僕はバラ色の人生を想像し、行きつくところまで行っていた。
乳毛がなくなったら、モテモテになって、ああなって、こうなって、こんなことになったらどうしよう!あーもう!布団の中でくねくねしたり、ジタバタしたり、想像は膨らんだ。
約、一週間後、到着。 説明書を読むと、ペン状のものからレーザーが出て、レーザーは色素に反応して、ムダ毛の毛根を焼き切り、それを繰り返すとムダ毛は二度と生えなくなる、というものだった。 さっそく、コンセントを入れて、ムダ毛のある乳首にペン状のものを充ててみた。
バチッ! すごく痛い。
毛根を焼き切るときに、多少痛みが伴うとは説明書に書いてあったが、この痛み、ただ事じゃない。
バチッ!バチッ! 痛い!痛い!
あまりの痛さに、涙がこみ上げるんじゃなくて、どんどん涙が作られ、そのまましとしと目からこぼれ出る! 何が起きた?どうなっているんだ?痛すぎる。
・・・あ、分かった!色素に反応して焼くってことは・・・・乳毛の毛根じゃなくて、乳首、色のついた乳首そのものに反応して焼いているんだ。こんなの、耐えられるか! 二十六万円の機械は、ものの五分で無用の長物となった。 もういい!僕は乳首の毛とともに生きる!
第二思春期の胸の痛みは、物理的な胸の痛みとなって、涙とともに昇華された。
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