瞬間なかすぃ〜 −ラブ・アタックは4時までに−
@zukkokenji
水面下の戦い
この作品は長崎在住のなかすぃ〜が、「週刊なかすぃ〜」として一部の人に対して連載したものです。背景や表現はすべて当時のものです。
この物語たちが、皆様の恋、仕事、人生における道標になることを祈りつつ…
これはどういうことだ? 泥酔状態から酔いが一気に覚めた。科学的、生理学的にそういうことがあり得るんだな。一気に正気になった。 ホテルの廊下に素っ裸でいる自分がいた。僕は何をしてるんだ?
平成27年6月10日、僕は東京のホテルにいた。ヒマな離島の対馬から長崎に異動して一年目。激務で睡眠時間は毎日4時間程度、土日も職場に出る生活。次から次に仕事が舞い込み、ありもしない行動力を無理やり絞り出して、アタックし続けなければならない業務内容。日々疲れて、洗濯をしそびれてワイシャツがなくなるほどの生活。毎日、バタンキューとはこのことかというほど帰ってすぐ寝る生活。部屋にはロフトがあり、寝床があるのだが、そこまで上がる元気もなく、下の部屋でそのまま服を脱ぎ捨てて寝る生活。
東京に行く間の飛行機内は久しぶりの爆睡。そんな状態だった。
東京で業務のある同僚の手伝いで、上司と同僚と3人で東京に行った。 東京に着いてから上司たちと、また、別に合流した大勢と飲み会。疲れている体にアルコールが染み渡ったんだろう。ホテルに帰った記憶もない。そして、いつものように服を脱ぎ捨てて寝たんだろう。
ここで着目すべくは、なぜ、僕はすっぽんぽんでホテルの廊下に出たか、だが、ちょうど僕の長崎で住み始めたアパートの、ロフトに上らず寝ていた部屋とトイレの位置関係が、ホテルでいうとちょうど寝室と廊下への出口になっていたので、いつものくせで、裸でトイレに行くつもりで廊下に出てしまったんだろう。 部屋はオートロックでカギが閉まってしまった。
すっぽんぽんで、辺りを見回すと、廊下、エレベータ、非常階段しかない。トイレもない。物陰もない。一時避難ができない。電話もインターホンもない。置物とか、とりあえず股間を隠すツールも一切ない。今すぐ行動しないと誰かに見られたら終わりだ。
上司や担当の部屋は何号か知らない。フロントに助けを求めるしかない。エレベータは誰かと一緒になったら終わりだ。階段か?非常階段に手をかけた時、思った。非常階段は屋外階段だ。そして、防犯のため、外から開けられないはず。屋外にすっぽんぽんの人間が出て、中に入れなかったら、外の人から通報される。ホテルの中だけの話じゃなくなる。最悪だ。
酔いが残りながらも冷静な判断をギリギリして、非常階段から行くのを止めた。
となると、あとはエレベータしかない。エレベータで人に出会ったら終わりだが、これしかない。判断を早くしないとますます危うくなる。決死の思いでエレベータを呼んだ。 エレベータが来た。誰も乗っていない。心を決めて乗り込んだ。目指すは一階。六階から一階のエレベータ移動がこんなに遠く感じるのは初めてだった。そして、やっと一階に到着。ここからもフロントまでに人に会ったら終わりだ。股間を隠しながら、フロントに行く。フロントには客はいない!壁伝いにフロントに行き、フロントに斜め下から話しかけた。
「すみません、助けてください。」
「はい。あ?あ??何してるの?」
水面の下から急に顔が出てきた感じで、しかも服を着てない男から突然話しかけられてたじろぐフロント。
「間違って廊下に出てしまって・・・」
「え?」
フロントは少し戸惑った後、
「はい、これ着て」
フロントの人がパジャマを渡してくれた。ただ、よくあるビジネスホテルの短いやつだった。
「もう一つあげようか?それじゃ隠せないでしょ。」
パジャマをもうひとつもらって、とりあえず大事なところを隠した。 「何号室?」 部屋番号を答えてカギをもらって、一目散に部屋に戻った。 裸の感覚が残ったまま、スーツを着て翌日業務を行った。 ひととおりのバタバタした業務が終わって、羽田空港で、同僚に起きたことを伝えた。同僚は一つ年上だから、上司でもある。よし、たった今、可及的速やかに現場の担当者でもある上司への報告もした。あとはもう知らない! 今、僕は普通に働いている。あの件で何か問題になって処分なども受けてない。大丈夫だったみたいだ。これ以上人には言わんとこう。
ただ、令2年、大病して、回復して、なんだか、気持ちが変わって、ネタにするわけではないが、東京で孤独に水面下で戦っていたことを、ここに告白する。
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