第4話
2000年当時、検索サイト大手yahooがチャット機能を使ってコミュニティーを立ち上げていた。祥子周りにはMacUserがおらず、クリックの仕方から何から何まで画面の中の親切な人たちに助けてもらった。中でも仕事でMacintoshを扱っているグラフィックデザイナーは親切だった。弘樹だ。
ある日、彼から言われた。
「祥子さんには魅力がある」と。祥子はこんなニートに興味を持つ人間に好意を持った。
個人チャット機能でやりとり1年。ふたりは実際に会うことにした。
祥子は弘樹の提案により看護職にこだわらず気楽にアルバイトをしてみることにした。実家から自転車で10分もしない自営のこじゃれた洋食店だった。仕事はランチタイム、シェフ気まぐれメニューと王道のオムライスとパスタ。
飲食バイトでありがちな複雑メニュー把握がなかったので、ありがたい店であった。
店に着くと着替えをし植木に水をやる、この単純作業と生き方を教えてくれる植木たちに救われた。
だんだんと社会と繋がることに手応えを覚えた時、弘樹から島根の親にあって欲しいと提案があった。
梅田のバスターミナルに二泊分の手荷物と、とら屋の羊羹を携え軽く緊張を感じつつ長旅に備えた。松江駅に着いたのは太陽が方向を変えた頃だった。はりきって白髪染めを明るくしすぎた元義母と、祥子の手料理で10Kg増やした弘樹はなかなか再会できなかった。
30分ほどうろついた末、弘樹の母の車に乗りこんだ。そこからは話が早く進み、出雲大社で結婚式をあげたい旨、身内だけで済ましたい、形式ばったイベントはなしと祥子の意見を汲んで結婚式へ話が進んだ。
結婚生活は祥子にとって居心地のいいものだった。なぜなら職業は専業主婦で通るからだ。ただよく思わない勢力もあり、ありがちな質問を受けた。
「1日中、家で何してるの?」
祥子は決まってこう答えるように努めていた。
「お留守番」
この言葉がしっくりきていて、間違ってない、そして何よりトゲがなかった。
〜〜clubhouseでは不思議なループが存在した。悩み事や困りごと、見ず知らずの相談する人が存在していた。それに輪をかけてリアルで疎遠になってたママ友にも再開した。
クラブハウスで再開したママ友とは数奇な縁を持っていたのだろう。
ちょうど祥子はその時まな娘コウのことで悩んでいた。担任よりショックな報告を受けたばかりだったからだ。
コウは悩みを抱えていた。まずは母親のこと。フラフラと男になびき言いなりになっている姿を見るのでは足りず、彼氏と豪語するおっさんが家へ入り浸る。
更にめんどくさい絡みを展開したのち母親はそれを抑止せず迎合していたからだ。
ふたつ目は学習塾。
イラストを描きたい時間を割いて課題に追われる事、定期テストで上位に居ないと塾の席が前になってしまうという、目にみえる競争社会にうんざりしていた。もちろん尊敬できない母親へ相談することもできず八方塞がりになっていた。
そこで覚えたのがカミソリ、百円均一ですぐ手に入った。入浴時間に左腕と右腿にスッと切り目を入れ血が滴るのを眺める、それだけでフラストレーションが解放された。
一時期母親にシーツに着いた血を指摘されたが生理だと言ってやり過ごせた。その事でどんどん継続してやり続けた。担任にバレるまで。
祥子は職場の休憩室のロッカーで固定電話の着信を受けた。とりあえず出てみるとコウの担任であった。いつもの仮病の報告だろうとタカをくくって、けだるく対応した。担任から出た言葉に、ピリっと背中に何かが走った。
2日ほどのちclubhouseの著名作家へ相談をしていた。「飛行機で吸入用酸素が落ちてきた場合、大人が装着してそれから子供が装着するというルールがある、まずはお母さんが笑ってないと」
祥子は涙を流しながらiPhoneを握っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます