視線
俺はしがないアルバイト。
30代も中盤。最早、誰からも期待されなくなった俺は、毎日薬局のレジ打ちをしている。
今日も俺はレジ前に立ち「いらっしゃいませー」「ありがとうございましたー」の二言のみで仕事をこなす。
そんな俺にも楽しみはある。
毎週、数回不定期で訪れる女子高生がいる。背は低く、艶やかな黒髪が靡き、化粧は薄め。しかしそれでいて目鼻立ちがしっかりしている。そう、一言で表すなら汚れを知らない美少女。俺の好みだった。
そんな彼女は店内に入るなり可愛らしくキョロキョロしてみせ、俺と何度か視線を交わす。彼女の黒く澄んだ瞳が俺を捉えるや否や俯いた。
あぁ、どうやら彼女は俺に気があるのだろう。内心では浮き足立ちながらも俺は澄ました顔で彼女を流したように見る。
化粧品コーナーを物色している彼女。幾つか商品を手に取っては棚に戻す。悩んでいる姿も可愛らしい。
彼女は数分その場にとどまった後、特に何を買うでもなく俺をチラッと見て店を後にする。
いつもそうだ。彼女は特に何か買うでもなく、店を出る。高校生だからな。小遣いの中でやりくりするのも大変なのだろう。欲しい商品を眺める気持ちはよく分かる。
それにしても、最後に俺を見ていく姿、なんとも言えない愛らしさを感じる。
俺は休憩室に戻り、帰宅の準備をしていると店長が悩ましげな顔をしながら、「最近、売上と在庫が合わないんだよなぁ」とぼやいていた。
俺はそんな店長を横目に「お疲れした」と、一言だけ残し家路に着く。店長は心ここに在らずといった感じで返事を返した。
店の売上がどうだろうと、俺には関係ないことだ。だって、俺はただのアルバイトなんだから。
言われた業務をただこなすだけ。レジ前に立ち「いらっしゃいませー」と「ありがとうございましたー」この二言だけを言えばいい。
そして、店長に「お疲れした」の一言を残して帰る。社員なんかになってあの店長のように頭を抱えるなんてこと俺にはできない。
そして、今日も俺はレジ前に立つ。
あの女子高生がやってくる。
今日も彼女と目が合った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます