猿の手
男にはコンプレックスがあった。
男は端正な顔立ちをしていて、笑うと笑窪が出来る。その笑窪も相まって幼さが目立つ童顔だった。
周りからはカワイイと言われていたが、当の本人は全くもって嬉しくない。
二十代後半に差し掛かるも、その童顔と笑窪から酒の席では年齢確認を求められることが多々あり迷惑していた。
そんなおりである、男はふとした事から猿の手を手に入れた。
それはどんな願い事でも三つ叶えてくれると言う夢のようなアイテム。
しかし、猿の手は必ずしも万能とは限らない。
猿の手は持ち主の意に反する方法で願いを叶えてしまうのだ。
男はそれを知りながら、コンプレックスである笑窪を消してほしいと猿の手に願った。
自分の笑窪を消すくらいなら対したことは起きないだろう。男はそう鷹を括っていた。
猿の手は願いを聞き届け、不気味に光る。
男はすぐさま洗面所へと向かい鏡で自らの顔を確認した。
ニっとはにかんで見ると鏡の中の自分の顔に笑窪が浮かぶ。
「くそ」男は、そう吐き捨てて猿の手を床に投げつけた。
次の日、テレビを点けるとニュースキャスターが深刻な顔で原稿を読み上げていた。
「某国で未知のウイルスが流行しています。このウイルスは致死率が高く、感染力も高いとのことで、世界中でウイルスが流行るのも時間の問題とのことです。次のニュースです、双子のパンダが……」
ニュースキャスターの言う通り、あっという間にウイルスは世界中で流行した。
人類にそのウイルスの感染を止める有効な手立ては無く、感染の恐怖に震えながら、唯一の予防手段として皆マスクを着用し終始口元を隠すしかなかった。
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