第39話 根くらべ


 古代種を取り囲むように氷柱が出現する。疾風をまとった虎が、柱の死角から苛烈な攻撃を開始した。


 フェイリスが前衛、アリシアが援護。即席のコンビでどこまでやれる。


「二人組もうが関係ないわ! こっちの魔力はいくらでもあるんだからね」


 メディナの魔力で、古代種の傷は即座に塞がる。


 無限とは言えないまでも、俺とは比べるまでもないだろう。持久戦になればこちらは不利だ。


 氷の一部が古代種の体を覆い、動きを止めた。


「ドラちゃん、飛んで!」


 アリシアのかけ声と共に、フェイリスの体が大きく浮き上がる。噴射した水で高く飛び上がったのだ。


 動きを封じる間にアリシアは海月を出現させ、歌い始めた。催眠効果のある魔法だ。


 危険を察し、メディナは飛ぶようにその場を離脱した。


 古代種はそうはいかない。瞼が落ち、活動量が低下した。そこにフェイリスが落下してくる。


 蒼炎を纏った爪が、一刀両断。古代種の体を縦に裂いた。


「ギャウウアアアアアアッ!」


 ねじれた口から断末魔の悲鳴が上がる。致命傷であることは疑いようがない。


「だからなに? 無駄だって……」


 観客席にいるメディナの得意顔が固まる。傷が癒えない。古代種は氷塊に閉じこめられ、絶叫し続ける。


「さながら氷の棺でしょうか。外から遮断すれば魔力の流れも途絶えます。根比べなら負けませんわ」


 アリシアの目論見は、古代種とメディナの分断にある。


 フェイリスの炎は氷も構わず溶かしている。彼女はフェイリスの魔力にもあらがわなくてはならない。まさに根くらべだ。


 着地したフェイリスがメディナに急進する。魔力の元を絶てば戦いは終わる。


「あっほらし」


 メディナは捨て台詞と共に魔力の供給を停止した。再生と破壊を繰り返した古代種にようやく安寧の眠りが訪れる。


「遊びはこのくらいにしといてあげる。メインは別にあるしね。チームウロボロス、棄権するわ」


 暴虐を尽くした女が負けを認めた。これが試合であったことを今更思い出す。


 闘戯場の至る所が崩れ、けが人も大勢出た。これくらいで済んでよかったと言っていいのか。


 メディナは忽然と姿を消した。取り逃がしたのは痛い。もう一つの獣王の証。あれがフェイリスたちに使われていたらと考えただけでも恐ろしい。


 不幸中の幸い、めるるはかすり傷ですんだ。怪我とは別に、先鋒を買って出て負けたのを気に病んでいた。


「みんな、迷惑かけてごめんね……」


 フェイリスとアリシアは黙って妹分を抱きしめた。


 あの混沌とした現場で、誰もが最善の行動を取ったと思う。俺もなんとか倒れなかったし。


「スミスもなかなか頑張ったではないですか」


 ドラが肘で俺をつついてきた。


「そうか? 突っ立ってただけだけど」


「そんなことありませんわ。スミスさんの魔力が切れなかったから、私たちは最後まで戦えたのです」


 アリシアの言うとおり、魔力が切れていたらどうなっていたか。魔力の総量は生まれた時から決まっている。量は増えないが、以前より魔力回路を開くのが楽になった気がする。この大会を通して俺も成長していればいいのだが。


「何はともあれ、次はいよいよ決勝です。わたしは戦いたい相手がいます」


 ドラは切り替えが早い。既に先を見ていた。


 Aブロック勝者は当然のごとくレーヴェンのチーム。ドラの目当て、ルーチェは大将らしいが、これまで一度も戦っていない。つまり先鋒と次鋒だけで試合を決めてきたということだ。控えめな性格の秘蔵っ子からは不穏な空気が漂う。


 だが、俺たちの結束も負けていない。


「頼むぞ、大将」


「ドラちゃん、頑張って」


「ドラ姉なら絶対勝つよ!」


 チームスミスは一丸となり、決勝の舞台に臨む。

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