第4話 姉妹


 ボスを倒す前に雑魚を一掃する。


 フェイリスに虎を追わせ、狭い通路に追い込む。予めそこに粘着床のトラップを置いておき終了。


 フェイリスによると火元の方向に姉がいるらしい。


「姉はおかしくなってしまいました。力を誇示するため殺戮をしているに過ぎません。これ以上恥をさらす前に終わらせます」


 俺は話をあまり聞いていなかった。歩くたびにフェイリスの胸が揺れる。しっかり谷間が確認できた。


 慣れていないと言っていたが、すらりとした手足を振って優雅に歩いている。顔も小さくスタイル良い。獣でなければ絶世の美女といっても過言ではない。


 だが、油断してはいけない。こいつは女王個体。数百年間隔で活動し、世界を蹂躙してきた。


 説は様々だが、目覚めるのは恋の相手を探すためだと言われている。運命の相手を見つけるため人を喰い、国を滅ぼし、地形を変える。歩く災厄。


 こいつがそうじゃないという保証はない。だからじっくり検分せねば。


「いました! 姉です!」


 しまった! 胸を調査しすぎて火元に近づいていた。こいつ策士か。


「遅かったなあ、フェイリス」


 倒れた冒険者を山積みにし、その上に女が佇む。紅連の炎を背景に獰猛な笑みを浮かべていた。黒髪に赤いメッシュ、服はフェイリスと似たり寄ったりだ。


「え、あいつも人間になってね?」


「わたしは姉を殺します! 主は援護してください!」


 人の話聞こうよ。なんのために俺は呼ばれたんだ。


 縦横無尽、滅茶苦茶殴りあう姉妹。拳の応酬が目視できない。衝撃で近寄れないので、瓦礫を楯にタイミングを計る。


「こんなことをして何になるのです! 矜持を忘れたか、ヴェーラ」


「強さこそ矜持。強い者が王になる。何故貴様なのだ。私の後ろを歩いている愚妹がッ!」


 拳で語り合ってる最中悪いね。隙発見。俺は姉の胸部に向けて弾丸を放った。


 瓦礫の隙間を縫い、視覚的盲点、タイミングは完璧。しかし驚異的な反射で姉は飛びすさり、弾をよけた。 


「まだ人間がいたのか。邪魔だ、失せろ!」


 なんかヤバい。

 

 キーンという耳鳴りの後、突如爆炎が上がった。橙色の炎柱が通りを焼き尽くす。


 俺は全速力で後退し、炎から逃れた。二つ通りを遡ると、背後は黒煙に包まれていた。フェイリスは……


「主、ご無事ですか?」


 ブレスレットから声がする。これ交信できるのか。


「俺はなんとか。お前は」


「無事……、といいたい所ですが、少しもらってしまいました。左腕が上がりません。で、でもかすり傷です!」


 あんまり大丈夫じゃないな。


 あの炎は魔法だろう。広範囲に爆発を起こす。威力は大魔法級。


 引っかかることがある。グリフィンタイガーは魔法が得意な種族ではない。二つ名も、空を飛んで海峡を渡ったという伝説から来ているが、今現在魔法で空を飛ぶ個体は確認されていない。


 そもそも統率権がたやすく奪えるものなのか? 裏に誰かいる……?


「無理言って悪いが時間を稼げるか。やることがある」


「……、やってみます」

 

 あのヴェーラという奴は真正面から戦って強さを誇示したいらしい。だったらそこに付け入るまでだ。


 



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