第十六最終章

第84話第十六最終章16-1暴走

16-1暴走



 右腕にシャルの重さを感じながら俺は目を覚ます。

 洞窟の中でまだ焚火がパチパチと音を立てているおかげで裸でも暖かい。



 「うぅん……」



 腕の中でシャルが目を覚ます。

 もそっとかけられた毛布が持ち上がりシャルが起き上がる。

 そして白い肌と薄い胸が見える。



 「うぅぅぅん、ふわぁああぁぁ~…… あっ!//////」


 起き上がり俺の腕の中で寝ていた事に気付いて真っ赤になりながら胸下を隠す為に毛布を引っ張る。



 「あ、えっと、その……」


 「おはようシャル。お前のお陰で命を取り留められた。ありがとう」



 俺がそう言うと真っ赤だった顔が更に真赤になって耳まで赤くなりびくびくと動いている。



 「あ、その、もう大丈夫?」


 「ああ、お前のお陰でな。エルフの癒しを施してくれたんだろう? お前の請け負った背中の傷大丈夫か?」


 エルフの癒しとは親しい仲の者が大けがなどしたときにその傷を治しながら自分が相手の負担を肩代わりするものだ。


 今シャルの背中には剣で刺された傷が有る。

 それは俺の背中に有った傷の半分近くを肩代わりして自身の身に受けているからだ。

 大けがで致命傷の時などその傷を分け合って何とか命をつなぐ方法。

 その昔ダークエルフのザシャにもしてもらった事が有るらしい。



 「き、傷は大丈夫…… そ、その、私たち、し、しちゃたんだよね//////」


 「嫌だったか?」


 「そ、そうじゃないの! その、しちゃった後でこう言うのはなんだけどアイン、私はあなたの事が好き」


 真剣なまなざしで俺を見る。

 俺は起き上がりシャルを抱きしめる。


 「分かっている。俺もお前の事が好きになっていたんだろうな……」



 びくんっ!



 シャルは俺がそう言うと思い切りビクつく。

 そしておずおずと俺の背中に腕を回す。



 「まったく…… 死んじゃうかと思ったのに私の初めて奪うくらい元気なんだから!」



 「すまんな…… しかし、なんであんなことを?」


 陽動で爆弾を爆発させてもらうだけでよかったはずなのにシャル自身がガレントの連中と戦っているとは思いもしなかった。



 「だって、爆弾ってのはすぐに無くなっちゃうし砦に『鋼鉄の鎧騎士』たちが戻ったらアインが不利になるだろうって。だからあたしが少しでも足止めできればって……」



 シャルはシャルなりに俺に加勢していたと言う事か。

 確かにいくら【地槍】アーススパイクで門を閉ざしても「鋼鉄の鎧騎士」が数体来られれば破壊され砦の中に戻って来てしまう。

 そうすればアルファードとの戦いにも支障が出るだろう。


 俺は小さく笑ってシャルの髪の毛を撫でる。



 「そうか、ありがとうな。おかげでアルファードを倒せた」


 「うっ、か、感謝してよね!」



 一瞬身体をこわばらせるもすぐにまた俺に寄りかかり回す腕に力が入る。



 やれやれ、こんな俺でも森の妖精に魅入られてしまったか。

 俺とシャルはもう一度顔を見合わせ口づけを交わすのだった。



 * * * * *



 「アイン、何処に向かう気なの?」


 『とりあえずはボヘーミャに戻り、アインシュ商会に話をしてサージム大陸に戻ろうと思う。もうここにいる理由は無いからな』



 いろいろと支度をしてから俺たちは「鋼鉄の鎧騎士」に乗ってボヘーミャに向かう。

 シャルはまだ少し痛いとか言っているので俺が「鋼鉄の鎧騎士」で抱きかかえるかのようにして移動を始めると、最初からこうしてもらった方がよかったとか言っている。


 俺は苦笑しながら何も言わず進むが、気持ちシャルが座り心地いいように抱き上げる腕を調節する。



 「サージム大陸に戻ったらその後は?」


 『そうだな、イージム大陸のイザンカ王国に戻ろうと思う。あそこなら仕事が有るだろうし、この【鋼鉄の鎧騎士】を持っていても問題が無いからな』



 この後ガレント王国は大騒ぎになるだろう。

 普通に考えれば王位継承権を持つはずの第一王子がどこの馬の骨とも知らないやつに殺されたのだ。

 自業自得とは言え国としてのメンツもある。

 俺の事を探し回り復讐される可能性もある。

 

 となればイザンカのような国に身を潜め傭兵家業をした方がいいだろう。


 今後どうなるかは分からないがイザンカ王国とホリゾン公国はガレント王国と戦争状態になった。

 世の中が落ち着き始めればまた和平の話も出るだろうがそれは俺の関する所じゃない。


 シャルと共にイザンカで傭兵家業か。

 悪くはないだろう。


 

 「あれ? ねえアイン、この『鋼鉄の鎧騎士』の腕の外装、なんか壊れた所が少し元に戻っていない?」


 『ん? そうか?? 素体はなんとも無いが外装はジュメルとか言う連中が作ったからな。エルフの長老たちの封印のお陰であの声にも抗えた。自己修復でもあるのかもしれない、この外装は特殊なのかもな。まあ、イザンカに戻ったら元の外装に戻すさ』


 俺はそう言ってボヘーミャへと急ぐのだった。



 * * * * *



 「見えてきたわね、魔法学園ボヘーミャが」



 シャルはそう言って俺の「鋼鉄の鎧騎士」の腕の上に立ち上がる。

 あの後しばらくしてまだ少し違和感は有るけど痛みは引いたとか言っていた。


 あまりにもにこやかに言うもんだからこちらの方が恥ずかしくなってくる。



 しかし不思議なものだ。


 あれだけギスギスしてた俺の心が今は軽い。

 それはきっとこのエルフの少女のお陰なのだろう……


 『さてと、一応は港に行ってこいつを置いてから学園長に報告くらいはしないとな。あれでも世話になったのは事実だしな』


 「アインって変な所が律儀よね? でもそうね、そうしましょう」


 俺とシャルはそう言いながらもうじきボヘーミャの街に入る所まで来ていた。





 どくんっ!



 ―― チダ、チカラアルチダ!! モット、モットヨコセェッ!!!! ――



 『なにっ!?』



 それは唐突に俺の耳のすぐ横で聞こえた。

 間違いない、あの声だ!



 ―― チダ、モットチヲヨコセッ!! ――



 もう一度その声が聞こえた瞬間、体中に何かが巻き付くような感覚が有った。

 俺は本能的にシャルを投げ飛ばしこの「鋼鉄の鎧騎士」から離れさせる。



 ばっ!



 「きゃっ! ちょっと何っ!?」



 とんっ



 いきなり投げ飛ばしたがシャルは難無く地面に降り立ち慌ててこちらを見る。

 しかしその時にはすでに変化が始まっていた。


 シャルを抱きかかえていた腕の外装がどんどんと膨らみ素体の腕を取り込み始めていた。

 それはものすごい力で素体である「鋼鉄の鎧騎士」をも上回るような強さだった。



 『シャル離れろ! あの声だ、【魔人】の声だ!!』


 「ちょ、ちょっとどう言う事!? 長老たちの封印は完璧じゃなかったの!?」



 シャルの言う通りエルフの長老たちの封印のお陰でこの呪いの外装は押さえられていたはずなのに、一体どう言う事だ!?

 そう俺が思った時にこの「鋼鉄の鎧騎士」の腕が目に入る。


 その腕は俺とシャルを抱きかかえ逃げ出した時に俺から流れ出る血を沢山浴びている。



 『まさか俺の血が外装の封印を解いたのか!?』



 その変化は腕からどんどんと体にまで伝わって来て程無くこの「鋼鉄の鎧騎士」全体を取り込む。

 そしてその外観をあの「魔人」に変えて行く。



 「くそっ! 『鋼鉄の鎧騎士』よ、このくそったれの外装を引っぺがせ!!」



 俺は「鋼鉄の鎧騎士」の中で取り巻き来る何かに抗いながら体の周りに取り憑いている外装を引きはがそうと操作するが強力な力のせいでなかなか動きが取れない。


 「こうなったら!!」



 きんっ!



 魂の奥底からその力を引き出す。

 そしてあふれ出て来る魔力を背中の連結型魔晶石核に注ぎ込み、共鳴をさせて腰部の魔晶石核も稼働させる。

 途端にこのオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」はその真なる力を発揮して通常の「鋼鉄の鎧騎士」をはるかにしのぐパワーを発揮する。



 ―― ソレヲマッテイタ! ソノチカラスベテトリコンデクレルワ!! ――



 「何っ!?」


 耳元でその声が聞こえたと思った瞬間、俺の身体から魔力が、いや、魂が吸い取られるような感じがした。


 

 「アインっ! アイン―っ!!」



 足元でシャルが叫んでいる。

 まずい、このままではシャルまで巻き込んでしまう。




 俺は残る理性と力を振り絞りよろよろと街から離れるのだった。

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