第73話第十四章14-4エルフの癒し

14-4:エルフの癒し



 シャルと名乗ったこのエルフの少女は俺を睨んだまま瞬きもせずその答えを待つ。

 俺は軽くため息を吐いてから言う。



 「英雄かと聞かれれば恥ずかしながらそうと答えるしかないな。イザンカではそう言われた」


 「まさか、あなたが英雄だというの? ガレントに現れるだろうって噂は違ったの?」



 彼女はそう言いながら額に手を当て頭を振る。



 「姉さん、問題よこれって…… しかし、英雄がガレント以外に現れたって事はやっぱりアルファードのやり方が間違っていたって事よね……」



 そうぶつぶつと言っている。

 一体どう言う事か訳が分からないが、まずはあの後どうなったかが聞きたい。



 「そちらの事情は分からないが、俺はこの後どうなる?」


 「どうって…… とりあえず最低限の手当てはしたわ。ただ、いろいろと聞かせてもらうわよ。私もあんなことされたんじゃもうアルファードに協力する気にもなれないしね」



 そう言って立ち上がり檻の方へ歩いて行ってしまう。

 そして檻の扉を開けながら俺に振り向き言う。



 「あなたの火傷、相当なモノよ。一応癒しの魔法もかけてあげたけど死にたくなければ大人しくしている事ね」



 それだけ言って出て行ってしまった。

 

 俺はまた上を向いて大きく息を吐いたのだった。



 * * * * *



 その後数人のエルフが立ち合いで俺に話を聞きに来た。

 特に長老の一人とか言われているファイナスと名乗った女性のエルフは事細やかに俺に話を聞いて来た。


 隠していても仕方がないので俺は聞かれた事にだけは答えた。



 「つまり、今現在に外の世界ではガレント王国が女神様の教えをたてに世界に平定をもたらすと言い争いの根源である『鋼鉄の鎧騎士』を統制するというのですね?」


 「ああ、イザンカでの見解はそうだった。それについてはそっちにいる彼女が詳しいんじゃないか?」



 俺は拘束されたままなので顔だけ一緒について来ているシャルに向ける。

 すると彼女はバツの悪そうな顔をする。

 ファイナス長老は彼女に顔を向けるも頷いてからまた俺に向き直る。



 「あの黒い『鋼鉄の鎧騎士』ですが、あなたの話ですとアガシタ様から譲り受けたと言うのですね?」


 「ああ、悪魔のアガシタにな」



 俺がそう言うとファイナス長老は大きく息を吐いた。

 そして少しだけ目をつむり俺に話始める。



 「あなたの言う事を信じましょう。シャルの報告の通りあなたは英雄の器を持っていました。そしてアガシタ様からあの『鋼鉄の鎧騎士』を受け取った。貴方には成すべき運命が有るようです」


 「俺に成すべき運命?」



 その言葉に俺は思わず目を見開く。


 俺はただ生き延びる為にあがいて来た。

 そんなご大層な運命を背負った覚えはない。


 それに俺は取り返しのつかない事をしてしまった。



 オクツマート、ルデン、ベリアル……



 ずっと俺の馬鹿に付き合ってついて来てくれたあいつらを殺してしまった。

 オクツマートに関しては直接おれ自身が手を下した。


 そんな俺に成すべき運命だと?



 「ファイナス長老、確かにこの者は英雄の器を持っているのかもしれませんが、あの黒い『鋼鉄の鎧騎士』がアガシタ様のお与えになった物とは到底思えません」



 俺がそう思っているとシャルはそう言って俺を睨む。

 そう言えば俺の乗っていたあの「鋼鉄の鎧騎士」はどうなったのだ?



 「確かにあれは異様です。呪いの痕跡もありました。しかも外装がオリジナルのモノではないとの事です。アイン、これは一体どう言う事か教えてもらえますね?」


 「詳しいのだな……」



 このエルフ、ザシャと同様でいろいろ知っているのか。

 いろいろと教えてもらいたいものだ。

 

 そもそも「魔王」などと言うモノがなんで「鋼鉄の鎧騎士」を作ったのか。

 そして何故あんな場所に封印されていたのか。

 アガシタは天秤を揺らせ、今の秩序を崩せと言うが何が目的なのか。



 そしてガレントのアルファードの野郎はどうなったのかを!



 俺はまずファイナス長老の質問に答えた。


 あの「鋼鉄の鎧騎士」の外装が秘密結社ジュメルとか言う連中の港町から奪ったものだという事を。

 そして宿敵のアルファードに追い付き奴との一騎打ちを繰り広げた事を。

 

 ファイナス長老は秘密結社ジュメルと言う名を聞き眉間にしわを寄せながら驚いていた。

 そして俺もその事実を知らされる。


 どうやらあの外装は呪いがかかっており、膨大な魔力を持つ者が操る「鋼鉄の鎧騎士」に取り憑き「魔人」へと化してゆくらしいという事を。



 「俺が『魔人』に成りかけていただって?」


 「ええ、あなたはその膨大な魔力を糧に魔人の依り代と成る所だったのです。しかしアルファードの魔法で「迷いの森」に吹き飛ばされました。結界をも打ち破るそれはあなたとあの『鋼鉄の鎧騎士』を精霊界にまで吹き飛ばしその暴走を止めた。今はまだ精霊界にあの『鋼鉄の鎧騎士』はあります」



 ファイナス長老はそう言ってシャルを見る。

 シャルは面白く無さそうに俺に言う。



 「あなたも覚えているでしょう? 吹き飛ばされた後あれから出てきた所を私に捕まった。そしてここまで運んで来て手当てをしてやったのよ」


 「シャルの話ではあなたが英雄と同じく瞳の色を変えたという話でしたからね。それにジュメルが関わっているとなれば合点も行きます。あそこまで強力な呪いをかけているとは。今は他の長老たちが暴走をしない様にその呪いに封印をかけています」



 そこまで聞いて俺はファイナス長老に聞く。



 「そもそも『魔王』が作ったって言うあの『鋼鉄の鎧騎士』ってのは何なんだ? ザシャは元ガレントのモノだとか言うし、あんな人のいない遺跡に封印されていたし。そしてアガシタは俺に何をさえる気なんだ?」



 

 俺のその質問にファイナス長老は頷き、答え始めたのだった。 

  

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