第71話第十四章14-2燃える森

14-2燃える森



 俺は燃え盛る炎の中、銀色のアルファードの「鋼鉄の鎧騎士」に映し出される自分の姿を見て驚く。



 『な、何だこれは? お、俺は……』



 思わず自分の手を見る。

 それは「鋼鉄の鎧騎士」の手では無く、生物的なモノだった。



 「アインっ! アインっ!!」



 足元でルデンが叫ぶ。

 それをベリアルが押さえている。



 「やめろルデン! 今のアインはおかしい! オクツマートだってアインにやられちまったんだぞ!!」



 ベリアルはそう言ってルデンを羽交い絞めにしている。



 俺は何をしていたのだろう……



 目の前に宿敵のアルファードの奴を叩きのめして、そしてあいつを倒して殺せば恨みが晴らせるはずだった。

 ガレントとの戦争で失ったアーシャ、アルファードの野郎に殺されたザシャ。

 彼女らの恨みを晴らし、そして憎きガレントをぶちのめしたい。


 そう思っていたはずなのに……



 「ルデン、下がるぞ! ぐふっ!」


 「なっ、ベリアルっ!! ぐわぁっ!!」



 ベリアルとルデンの悲鳴が聞こえた。

 そちらを見るとガレントの兵士たちがベリアルとルデンに剣を挿し込んでいた。


 一目でわかる、それは致命傷だという事が。




 『ルデン、ベリアルっ!!』




 慌ててそちらを振り向こうとした俺の耳元に声がする。

 そしてその声はまるで俺を呪縛するかのように動きを止めさせる。



 ―― ニクメ、スベテヲニクメ! ソシテスベテヲハカイシロ ――



 なんだこの声は?

 そう思うがその声は周り中から聞こえてくる。



 ―― コノヨヲハカイシロ。スベテヲムニカエセ、モヤスノダスベテヲ!! ――



 まるで呪いを唱えるかのようなその声は俺の頭に響く。

 そして俺の魂を引きずり出すかのように周りから響いてくる。



 『お、おのれぇ…… 傭兵風情がぁ……』


 地面に転がっていたアルファードの「鋼鉄の鎧騎士」が動き出した。

 俺に滅多打ちにされて気を失っていたのだろう。

 だが気が付いたようでゆっくりと起き上がる。



 『な、何だそれは? 貴様なにをしたんだ!?』



 アルファードの奴の「鋼鉄の鎧騎士」はそれでも無傷で立ち上がる。

 そして俺を見て驚きの声を上げる。



 ―― コロセ、コロセ…… ――



 『う、うるせぇっ!!』



 頭の中にまで染み込んでくるその声に俺は思わず頭を抱えて振り回す。

 しつこく、そしてはっきりと聞こえてくるその声はまるで呪縛のようだった。



 『こ、これはまさか【魔人】に取り込まれたのか? 傭兵、いやアイン! 貴様この世界を滅ぼすつもりか!?』



 アルファードの野郎がごちゃごちゃとうるさい。

 俺はよろよろとその場を離れ始める。


 しかしそれを察してアルファードの野郎が俺の前に立ち塞がる。



 『アイン、今貴様をここで何としても葬る! 我が魔力すべて使ってでもな!!』



 そう言って俺に手を向ける。

 

 ガンガン鳴り響くその声のせいで俺はアルファードの野郎のそれをただ見るしか無かった。



 『喰らうがいい! 【爆裂核魔法】!!』



 「だめぇっ! アルファード、そっちは『迷いの森』が有るのよ!!」



 女の声が悲鳴の如く上がる。

 しかしアルファードの野郎が手を向けて放とうとしているあの技はオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」の中身である人間には耐えられない魔法。


 そう俺が思った瞬間だった。



 「水の精霊よ、森を守って! 私たちのエルフの村をっ!!」



 女の声は悲鳴のようだった。


 だがアルファードの野郎の魔法は完成して目の前にあの赤い光が凝縮されてゆく。

 無駄とは分かっていても俺はもうろうろしながらも両の手を前にかかげそれに備える。



 きゅぅうううぅぅぅぅぅ……


 カッ!



 どぼごがぁああああぁぁぁぁぁぁあぁぁんッ!!



 灼熱の炎が、すべてを吹き飛ばす爆風が放たれる。

 が、俺の目の前に水の壁が出来あがる。


 そしてアルファードの野郎の【爆裂核魔法】をその水の壁は受け止め瞬時に蒸発するもののその威力をかなり落とす。



 ごぉがぁああああぁぁぁぁぁっ!

 

 

 『くっ!』



 ―― グワァァァァアアアアァァァァッ!! ――



 あの声も苦しみの悲鳴を上げる。

 俺も体のあちこちにやけどを負うが、前ほどではない。


 だがオリジナルの外装でない今の俺の「鋼鉄の鎧騎士」はそのあまりにも強力な爆風に耐えられずとうとう吹き飛ばされる。



 ごわぁん!


 ぶわぁつ!!


 

 『ぐっ!』




 そして俺は後ろの森に吹き飛ばされるのだった。

 

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