第58話第十一章11-4ドドス共和国

11-4ドドス共和国



 「つまりイザンカ王国とドドス共和国、そして我がジマの国の国境付近にイザンカ王国は砦を築きドドスの侵攻を阻止すると言うのだな?」



 ハイナンテ王は確認するかのように俺たちに聞く。

 ロッジはそれに答える。


 「はい、ですのでそれをジマの国に了承してもらいたいのです。我が国にジマの国及びドドス共和国への侵攻の意思はありません。あくまでも自衛の為です。そして必要とあらばドドス侵攻時には我が砦をジマの国の拠点として使用していただいてもかまわないと言う事です」



 拠点である砦に他国の軍隊を呼び込むのは手の内を知らせるも同然の行為。

 しかしそう言った条件を並べジマの国に対しての誠意を見せこの国にイザンカ王国は手を出さない意思表示にもなる。



 流石にここまで言わればハイナンテ王もうなってしまう。



 言い換えれば万が一の時には先にイザンカ王国から異常が有る事の知らせが入りジマの国自体も防衛の準備と時間が稼げる。



 「陛下、いかがいたしましょうか? 悪い話ではないと思いますが」


 バルク大臣はそう言って進言する。

 事実ジマの国自体には何ら不利な点は無い。

 

 「私も今件に関しては賛成いたします。もともと我が国とイザンカ王国は三百年前の盟友の誓いもあります。ベブルッシ王も我々とは友好の立場でもありますしな」


 イセキ大臣もそう言いながら進言をする。

 ハイナンテ王はこの部屋の端に座って静かにお茶を飲んでいる少女をチラ見する。



 気持ちは分からなくはない。

 ジマの国は対人戦としては優秀な騎士たちを抱えてはいるが対「鋼鉄の鎧騎士」には無力となってしまう。

 

 しかしこの国には「鋼鉄の鎧騎士」を凌駕する力が有る。

 それがこの少女、古の竜であるコクと言う少女だ。



 「ハイナンテよ、我はこの国を守る事に対しては力を貸そう。しかし人の世の政には口出しするつもりはない。汝が決めるがいい」


 少女はお茶を飲みながらそう宣言する。

 するとハイナンテ王は小さなため息をついてから意を決して俺たちに向かい話を始める。


 「分かった、イザンカ王国のその話を信じよう。そしてドドスに動きが有れば盟約通り我々は協力をする。我らは平穏を望む。そしてこれからもイザンカ王国とは友好的な関係を続けたいと思う」


 「ありがとうございます。では正式にこの件については公布を行いたいと思います。イザンカ王国の大使をこちらに派遣いたします。そして我らの砦の共有宣言を致し和平に対するいかなる圧力にも屈しない事を公表いたしましょう!」


 ロッジがここぞとばかりに話を持って行く。

 まあこの辺は任せて問題無いだろうし、これでドドス共和国も更に動きづらくなるだろう。

 

 イザンカの後ろにジマの国がつき、更にその意向に古の黒龍が賛同したとなればガレントの言い分はこちらでは通じなくなる。


 「鋼鉄の鎧騎士」を所有しない国で女神の僕となる黒龍が同意した事にガレントは異を唱える事は出来なくなるであろう。

 結果このイージム大陸での力関係は均等を取ることが出来る。


 まさしくアガシタの望んだ天秤が傾くことなく緩やかな揺れで済む事になるだろう。



 「今の秩序を崩すか‥‥‥」



 俺は誰にも聞かれる事無くそう小さくつぶやくのだった。



 * * * * *



 その夜、ささやかな宴が開かれた。

 俺はささやかとは言いながらうまい酒と料理に楽しませてもらい、酒で酔った頭を冷やしたくバルコニーに出て風に当たっていた。




 「アインよ、あなたに聞きたい事が有ります」



 一人バルコニーで涼んでいたはずの俺にいきなり声がかけられた。

 見ればそこにはあの少女、コクが立っていた。

 

 彼女はお付きの執事とメイドを共わず一人で俺の前に来ていた。


 「俺に答えられる事であればなんでも答える。あんたのあの一言でハイナンテ王は決心したようなもんだからな」


 ほろ酔いもあった俺は思わずそう答える。

 すると彼女はいきなり俺に酔いが醒めるほどの殺気をぶつけてくる。



 ずんっ!



 「あなたは我が愛しきお母様に仇成す者か? 異界の魂を持つ者よ!」



 なっ!?

 

 大いに驚かされた。

 殺気をぶつけられるよりなにより彼女は俺が別世界の転生者である事を知っていた。

 一体どう言う事だ?



 「答えなさい、あなたは我がお母様の敵か、否か?」


 俺は背中に冷や汗を流しながら彼女に向かい合う。

 そして改めて今までを思い返す。



 「俺は‥‥‥ 俺は神を信じない。神はいつも俺を裏切り絶望をもたらす。だからアガシタと契約をした。今の秩序を壊す為に」



 「それは我がお母様に仇成すのとは違うと言う事ですね? 女神である我がお母様に刃を向ける事が無いと言うのですね?」


 まるで鋭利な刃物を喉元に突き付けられたような気がする。

 俺は震えそうになるのをぐっとこらえはっきりと言う。



 「女神が俺に何かしなければ俺は女神に刃を向けることは無い。だが今の秩序、ガレントのやる事は気に入らない。だからあいつ、アルファードの奴だけは俺の手で倒す!!」



 俺がそう言い切ると彼女はふっと息を吐き殺気を止める。

 そして空の二つの月を眺めてから言う。



 「ならば良いでしょう。お母様に仇成すのでなければ人の世の事。あなたの好きにするがいい。私にはお母様さえいればいいのだから‥‥‥」



 そう言って踵を返して宴の中に戻って行った。


 俺は今更ながらにその場に腰を下ろし彼女と同じく空に浮かぶ赤と青の二つの月を見る。




 「全く、今の女神ってのはどんな奴なんだ?」





 神など信じない俺の本心だったのだ。 

  

 

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