第53話第十章10-4大義名分
10-4大義名分
前世の記憶がもたらした火薬の知識のお陰で魔道とも違う攻撃手段が増えた。
結局あの後ビブラーズ隊長がバレン指揮官やジバル将軍に爆弾の威力を見せつけ軍総出で燃える砂の原石採取と硫黄などの必要な素材を掻き集める事となった。
「まさかこんなものにそんな使い道があったとはな」
「でも魔法も使わずにあれだけのことが出来るのは凄いぜ?」
「おいおい、お前ら手を動かせよ」
ルデンやベリアル、オクツマートも一緒になって燃える砂の採掘にいそしんでいる。
とにかく今は手の空いている者は全てこの作業を行っている。
『今度はこっちで良いのか?』
『ああ、そうだ。ロマネスク、そこらへんはもう反応がない、他を頼む』
『分かった!』
俺たち傭兵部隊の「鋼鉄の鎧騎士」は採掘をする為の手伝いをしていた。
俺が「同調」をしながら「鋼鉄の鎧騎士」の目で地面を見ると燃える砂の原石のマナが見えると言う便利な状態だった。
なので俺が場所を特定し、「鋼鉄の鎧騎士」で大まかに掘り当てる。
おかげで採掘はどんどん進みそれなりの量が確保できた。
魔導士たちに聞いた所、この石は古い炎の女神の力が濃く残った物らしい。
前世の記憶では黒炭に硝酸カリウム、そして硫黄を混ぜ合わせれば黒色火薬になると言うのを教えられそれを使った原始的な爆弾をよく作らさせられたものだ。
この世界にもそう言たものが有ったおかげで今回の戦力不足に穴埋めが出来そうだ。
採掘が終わると今度は火薬の製造を始める。
硫黄は近くの洞窟にある蝙蝠の糞が溜まった所を探しその下の土から硝酸成分を取る。
なんだかんだ言ってドドスに近いここは山岳が多くなっているお陰で風穴や洞窟もそこそこある。
問題はたまに魔獣が出る事がだ『鋼鉄の鎧騎士』がいれば問題は無い。
「ビブラーズ隊長、こいつを作る時は火気厳禁だがもう一つ注意してくれ。こいつは湿気に弱い。濡れたらそれだけで使い物にならなくなる」
「分かった、油紙を仕入れる様にさせよう」
進軍は一旦中止になり急場だが爆弾の作成をしているここは比較的湿度が低い場所だがそれでも一旦湿ってしまえば使えなくなってしまう。
その辺を注意させながら俺は次の事をやり始める。
この爆弾は弓矢では重すぎて遠くまで飛ばせないので大型のボーガンの様な物に取り付けこいつを飛ばす事を提案する。
それを聞いたジバル将軍は急ぎそれも作成させ始める。
こうして「鋼鉄の鎧騎士」の数やその相性で不利なイザンカの戦力を補う準備が進んでいた。
* * *
「アイン殿、分からぬわけではないが飛び道具のみで『鋼鉄の鎧騎士』に太刀打ちするのはいささか卑怯では無いですかな?」
順調に作業が進んでいる中、俺はその作り方や注意点を指導していたらランディン隊長がやって来た。
元副隊長であったランディン隊長はこれが隊長に就任してからの初陣となる為やる気だけは有る。
しかし決定的な戦力差を覆す事は出来ない。
「ランディン隊長、これはイザンカの国に一歩も奴等を入れさせない為の物だ。卑怯ではないさ」
「しかしだな」
それでもまだ何か言いたい様子だったが一番の問題は国境付近に前線を固め、万が一に俺たち「鋼鉄の鎧騎士」がいなくても対処できるようにするのが目的だ。
俺にはあいつを倒さなければならない理由がある。
大義名分などと言うご大層な物では無く単に私怨だが。
だが、それはたとえ単独でドドス共和国に入っていくとしてもやらなければならない事だ。
「ランディン、お前の言いたい事は分かるが今はこの国を守ることが最優先だ。お前たち誉れ高い「鋼鉄の鎧騎士」部隊をこれ以上減らさない為にも必要な事でもある」
いきなりかけられたその声に振り向けばジバル将軍だった。
ランディン隊長はすぐに頭を下げるがジバル将軍は軽く手をあげそれをやめさせる。
そして俺に向き直り語り掛けてくる。
「話はビブラーズから聞いた。アイン殿よ、この爆弾を使って国境に砦を築き前線を作れと言うのだな?」
「ジバル将軍、もし俺たち『鋼鉄の鎧騎士』が不在時にまたあいつらが攻めてきたらどうする? 魔獣が多く人の住みにくいこのイージム大陸で国境に砦を築くのは確かに無駄かもしれない。だが少数の兵でもあの『鋼鉄の鎧騎士』に対抗できる手段が有ればどうだ? 爆弾は魔道でも『鋼鉄の鎧騎士』でもないが大きな力になる」
俺がそう言うとジバル将軍は頷く。
「まさしくそうだ。これ以上ガレント共の好きにさせる訳には行かん。今後同じように国境周辺には砦を作りこの爆弾を配備させよう! 奴等を土足で我が国に入れる事を許しはしない!」
それはここにいるイザンカの兵たちみんなが思う事だろう。
ランディン隊長はジバル将軍の話を聞きそれ以上何も言わなくなった。
こうして俺の進言を採用して国境付近へ砦も作ることになるのだった。
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