テグ戦記

さいとう みさき

プロローグ

第1話プロローグ 契約

 ―― 2342年9月:サボ港町近郊の砦 ――



 「とうとう見つけたよ。君、僕と契約しないか?」



 戦場の血なまぐさい空気の中、混戦に入り仲間たちが次々に殺されていく。

 多勢に無勢、遺跡に逃げこんだはいいが敵に包囲された俺たちの部隊は抵抗むなしく死ぬのを待つだけだった。


 仲間を必死に手繰り寄せた俺は既に死んでしまったその骸を地面に置く。

 

 魔法の魔光弾が飛び交う中、俺の前に現れたこの少女は年の頃十二、三歳くらいか?

 短い銀髪で年齢にしてはやたらと胸がでかい。

 こんな状況下でなければ見とれてしまうほどの美しさを持っている少女だが半そで半ズボンに皮のジャケットを羽織ると言うボーイッシュなスタイルがこの場に似つかわしくない。

 


 だが魔法の【炎の矢】や魔光弾が飛ぶ火中にこの娘は平然としていた。

 だから俺はこんな中でも思わずそいつに声をかけてしまった。



 「誰だお前は!?」


 「僕? 僕は天秤の女神アガシタさ。君、異界からの転生者だろ?」



 女神だと!?

 また神か!?



 「俺は神を信じない! お前らはいつも俺を裏切る!!」


 「まぁまぁ、そういきり立つなよ。丁度ここに封印されているんだよ、『鋼鉄の鎧騎士』がね」


 そいつは嬉しそうにそう言う。


 「『鋼鉄の鎧騎士』だと? いまさらそんなモノが有ってもこの戦況は変わらん!!」


 「でもこいつはオリジナルだよ? 『魔王』が作った十二体の一つだ。さあ、僕と契約をしよう。そうすれば君は『魔王』の作った世界でたった十二機しかないオリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』を手に入れられるんだよ?」


 そいつは嬉しそうに優雅に右手を差し伸べる。

 その手を見ながら俺はつぶやく。

 

 「‥‥‥何故俺なんだ?」


 「君が彼女と同じ異界からの転生者だからさ。この世界は偏り過ぎた。だから僕は彼女と戦う事にしたんだ」


 こいつ、俺が異界からの転生者と知って俺と契約をしたがる?

 女神だと?


 

 ふざけるな!!



 「お前たち神はいつも俺を裏切る。向こうの世界でも、こちらの世界でも記憶を取り戻した俺にいつも『試練』と言う呪いをかける! だから俺は神を信じない!」


 するとこいつは嬉しそうに笑う。


 「最高だ。待っていたよ君の様な者が現れるのを。神が嫌いなら僕は悪魔でもいい。さあ、僕の手を取り契約をかわそう。そうすれば君は悪魔の力を手に入れこの絶体絶命の戦況を覆せる。君の数少なくなった仲間も助けられるよ?」


 こいつ!


 俺は周りを見る。

 もう仲間は数人しか残っていない。

 こちら軍側の「鋼鉄の鎧騎士」だって先程破壊された。


 こんな状況下で!



 「僕の望みは一つ、今この世界にある新たな秩序を破壊して良きも悪きもバランスを取ってもらえばそれでいい。一所に力が集まり過ぎるのは良く無いからね。彼女にはそれが理解できないのかもしれない。天秤は、世界は揺れているのが一番安定するのだからね‥‥‥ だから僕は『悪』でもいい。そう、悪魔でも良いのさ!」



 悪魔か‥‥‥

 神で無いのなら。

 

 周りを見る。

 そこには仲間たちの無残な死骸だけが転がっている。

 生き残った仲間はあと数名。

 だから俺は差し出された手を取る。


 「ふん、良いだろう、神で無いのならば!」


 「契約成立だ、君にオリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』を与えよう!」


 そう言った途端にこの遺跡の足元が光り魔法陣が現れる。

 


 びきっ!


 ビキビキっ!!

 

 

 何かが割れる音がした次の瞬間だった。

 空間にひび割れが出来まるでガラスが割れるかのように落ちそこからそれは出てきた。



 「さあ、受け取るがいい! 『魔王』の作ったオリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』を!」



 高々とそう宣言する彼女を尻目に俺はその光景に魅入られ空間から出て来る銀色の「鋼鉄の鎧騎士」を見る。


 それは俺の前に現れ静かにその胸元を開き俺を呼び入れるのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る