TS男です。週イチでスーパーなロボットに乗ってます

くわ

第1話 主人公、冒頭で死す!!

『底辺はロボットで戦うことが義務です。「なぜですか?」人口間引き政策です』




<だいたいオッケー。動けます。信号を待って出撃してください>


 男とも女ともつかない声質で『頭(おつむ)が弱い底辺用』の音声が今回も垂れ流された。


 底辺用低コスト戦闘機『ロートル』の操縦席に体を押し込んでいる『こいつ』の名前は、まあなんでもいいじゃないか。国からも他人からも、個体識別に名前を使ってもらえる段階なんて何年も前に終わっている『底辺』なんだから。誰も『底辺』のプロフィールなど興味は無いだろ。


《これが低ちゃん呼び誕生秘話なのだ》


(秘話ってほどのもんかいな)


 操縦席に据え付けられた小汚いディスプレイにはHUD、『あちこちキョロキョロせずに色々情報を確認できる画面』が表示され、青字で<待て>の表示がデカデカと描かれている。これが赤字で<行け>と表示されたら出撃だ。


 まあ自分で動かさなくても一定時間で勝手に、それも一番戦況不利の場所に『発射』されてしまうので自分のタイミングで行くほうがマシなんだわコレ。


<行け>


《ゴーゴーゴー、ケツ引き摺るなっ》


 軍曹か。ビガーンビガーンときったない赤文字の点灯が表示された。予めこの辺がマシかなーと思っていた発光の少ない場所に進路設定して発射ボタンを押す。


「ぶっ」


 瞬間的な加圧に肺から息が吐き出されてみっともない声が出た。何度かやったが体は一向に慣れてくれねえ。


<戦地到着まで約8秒>


《定命の者よ、あの辺がオススメだぞ》


(今日は何ムーブなんだよソレ)


《この翻訳すげーって思うゾ。定命って、定命って普通言わなくない?》


(知らんがな)


 周囲の状況は戦地に入るまで画像表示されない。お国と軍広報部は『過剰に情報を与えないことで感情を乱れさせないため』と言ってやがります。つまり戦闘前からビビられたら困るって事だわな。


 『底辺』はいつも戦地に突然放り込まれるのでブリーフィングも無いぜ。あるのは殿当番の時くらいだ。それだってどうせ難しい作戦を話しても理解できないからと、『この地点で<戻れ>表示が出るまで戦え』くらいしか言われないけどよ。『底辺』の扱いなんてこんなもんだ。


《好きに壊せるボーナスタイムだっ》


(死ななきゃなー)


 お勤め1回につき『底辺の』生還率は75パーセント前後が続いている。5回戦ったらだいたい戦死する計算だから育てる気にもならんのだろう。一応、5回を戦って五体満足(戦える体って意味で)で戻って来たら『国民』に戻れるという『ご褒美』があるけどよ。


 『国民』に戻っても『出戻り』は『退役』まで戦わされるから結局は死ぬ。国の広報部の大嘘発表では5パーセントは『退役』したことになっちゃいるが、たぶんひとりもまともにゃ生還してないんじゃないかな。


《底辺はどれだけ生存税納めても数年お勤め上がりにされたら義務放棄って殺されちゃうからねー》


(働けなきゃ死、戦えなきゃ死、税金払えなきゃ死だからなぁ。うっかり骨折も出来ないぜ)


<到着 生き残れ>


 交戦域に入った。黒煙で燻る地上に着地するまでにおよその地形と戦況を確認する。出待ちの対空攻撃で撃ち落とされることを嫌って急降下するのも選択のひとつ。

 でもなぁ、あれ下っ腹に『キて』漏らしそうになるので『こいつ』はやりたくないんだ。そのために上空に流れる発光、対空砲撃の少なそうな場所に『発射』されたまである。


 ガレキだらけの市街地が今回の戦地か。まだ『当たり』のほうだろ。


《そこそこ良い物が出そうだね》


(強制買取で雀の涙に変わっちまうけどな)


 段階的に噴射を行って緩着地した『ロートル』を走らせる。鈍重といっても全長10メートル級の巨体は『走行』するだけで旧世界の戦車以上の速度が出る。ずっと噴射を使えばたぶん400キロは出るはずだ。


 もったいないからやんねえけど。最悪帰還シャトルに戻れなくなる。


<有効射程>


 今回の標的は『金属蛇』か。対空らしい対空は持ってないヤツだから、むしろ降下中に撃っときゃよかったわ。もちろんコイツばっかってわきゃないから意味ない愚痴。


《もうちょい纏まるのを待って、今》


RPロケット・ポッド』発射。実体弾は重たいからすぐ撃つ、これ『低コスト機』の常識。火力過剰とかいいんだよ、どうせ死ぬときゃ大物抱えてようがいまいがポックリ死ぬんだ。


<完殺 2体>


 敵さん1体を完全破壊すれば最低限の仕事はこなしたと判定される。3体で自主判断で撤退が許されるのでもう1体いてほしかったなぁ。1体でもやっぱり撃ったけど。

『ロートル』はとにかく鈍いから、先制で数を減らさないとタコ殴りにされるからよ。


《無難な立ち上がり。低選手まずは軽くツーアウト》


(野球解説かな?)


<敵を探しています>


『ロートル』は視界に入らない標的のロックオンはできない。ちょっと遮蔽物に入られたらそれで逃げられちまうし表示されない。『こいつ』が見た敵の種類と数、どの辺りにいたかの記憶で補強しないと思わぬ方向から攻撃されることになる。


《近くにもう一体》


 空になった『RPロケット・ポッド』を強制除装。発破による爆破という乱暴な方法で、噴進弾弾倉レンコンがボスッという振動と共に外れ、ズタズタのアスファルトにガランゴロンと落ちた。

 カラでも持ち帰るほうが安く上がるっっても大した差はない。小銭気にして死にたくねえし。


<オートバランス設定 やり直し…できました>


《右足のバランサー甘いっぽいから右旋回で傾け過ぎないでね》


(ありがとさん。気を付ける)


《発見。瓦礫から一体出るよ》


<有効射程>


ポンポン砲オートカノン』発射。小口径のおかげで連射が利く火器は便利だわな。連射っっても、発射音がポン、ポンって聞こえるくらい遅いんだけどよ。ちょっとでもすばしっこいタイプには当ったんねえ。


<完殺 1体>


《ナイス判断。スリーアウト》


 まあね、最初ガッチリ当たらなくても金属蛇程度なら破片榴弾で鈍らせて、最後は直撃取って押し切れる。こんな楽な戦地は二度ないだろうな。


《回避!! 回避!! 回避!!》


<攻撃>


 赤点滅。もう遅いだろうが噴射解禁。強烈な加圧で肌から血が噴き出すような痛みと重さが来て、気もすっと遠くなる。不規則な衝撃が余分な揺れを生み、気分が悪くなる。


《圧迫緩和、血流安定。起きて起きて》


<損傷 まだ平気>


 HUDに表示された『ロートル』のシルエットは黄色表示。深刻な機能不全は何も発生しなかったか、運の無いヤツ。


 噴射カット。左で切り返してロックオン。ガリガリとアスファルトを引っ掻きつつ向かい合う。

 オイいたのか虫型、マズいわー。一番嫌なタイプだ。半端に丈夫で火器が豊富なヤツが多い。半端ってのがミソだ、よし壊したと思ったらスクラップ同然の状態でも平気で攻撃してきたりするんだぜ。


《ばら撒け低ちゃん、ハリーハリー!!》


<有効射程>


 モーターガン起動。ポンポン砲で牽制しつつ接近して一気に勝負をかける。虫型は半端に丈夫だが可動部弱いところは多い。下手糞は変に狙うよりラッキーヒットを期待して弾幕で押し切るのが正解だ。


《ぶちかませぇ!!》


<完殺 1体>


 最後のぶちかましで完殺判定が出た。低コスト機にまともな近接装備なんて無いからな、勢い付けて体当たりするほうが安定するんだわ。誰だ、手持ちの実体剣なんて重いだけのゴミを標準搭載装備に提案したヤツ。ロボット兵器だからって夢見てんじゃねえよ。はなっから携行装置ごと爆破して取っ払ってやったわ。ロマンは自分で戦闘機ロボットに乗ってやれ。


 ってもこの戦法は『ロートル』も無傷じゃねえ、中身も怪我するから可能な限りやりたくない。衝撃でどっかぶつけて鼻血出たわ。


《鼻粘膜の細い血管が破けただけだからすぐ止まるよ。でも頭は深刻だ。おバカさんがもっとおバカになったかも》


(今以上には馬鹿にならんよ)


<継戦するとボーナスがあります>


《トラップ。危険》


 戻る、終了、バイバイ。誰が続けるか。


<転戦するとボーナスがあります>


《トラップ。殿しんがりにされる》


 NO ヤダ、お断り。誰が行くか。


<撤退シャトル到着まで360秒>


 ここからシャトルの到着、撤退するまでが戦闘。戻る権利を手に入れても戻れるとは限らない。撤退シャトルの被撃墜率は12パーセントらしい。情報ソースは大嘘つきの広報部発表だけどなー。


(生きてたらお疲れさん、スーツちゃん)


《低ちゃん乙。悲観し過ぎじゃない? スーツちゃんがいれば大丈夫大丈夫》


 スーツちゃんは能天気で癒されるなぁ。





(生きて帰って飯を食う。実に健全)


《代用の合成食品って健全かなぁ?》


 オーガニック食品なんて底辺どころか一般階層でも無理なんだよ。常食できるのはエリートくらいじゃねえの? 底辺階層は合成栄養粉末の入ったフードカセットをフードメーカーに突っ込んで『料理』っぽく加工した『料理?』が主食なんだわ。


《各種合成調味料カセットと、各種合成栄養粉末カセットかぁ。水タンクが一番高いっていうのがヤバイ》


(真水は高いぞぉ? 色々『ろ過』した後の水は安い。変な臭いがするやつな。ほれ、前にスーツちゃんが止めたやつがそうだ)


《あれホントにろ過してるの? 人体に害のある成分がざっと50種は残ってたよ》


 スーツちゃんに検査機能なんてついてねぇはずなのに何で分かるんだろうな。体に悪そうなもんの種類はともかく、体に悪いのはオレでも分かるけどよ。


(ただちに影響は無い=問題ない扱いらしいぜ)


《具合が悪くなりたくないならあれだけは飲んじゃダメ。触れるのも触るのも無し》


(シャワー浴びれねぇじゃん)


《早く一般階層に復帰しようね。低ちゃんの体臭が本格的に獣臭くなる前に》


 底辺階層の排水溝より臭くなるこたぁないさ。それと復帰はちょっと違う。


 一度底辺に落ちたら一般に這い上がっても『二級一般人』だ。週一の出撃義務も無くならないし『生存税』も取られっぱなしだ。やってらんねえ。


 第一、『一般階層出身の設定』はあっても『こいつ』でスタートしたときはもう『底辺落ち』だった。一般人だった頃の記憶なんて『こいつ』には映像で見た記憶しかないじゃねえか。


《一般施設にはのぉ、『大衆浴場』っていう入浴施設があるのじゃ。底辺の一日60秒しか水が出ないシャワーと違ってな、なんとお湯に浸かれるのじゃッ》


(スーツちゃん、オレ頑張るよ。スーツちゃんの言ってた『ダシ』ってのが出るかこの目で確かめてやるんだ)


《うーん、低ちゃんから出るのはせいぜい老廃物かなー》





《あーたーらしーいモーニングッ》


(おはようスーツちゃん。オレの頭の中だけとはいえ、起き抜けにでっかい声で歌うの止めねえ?)


《起こしてくれと言ったのは低ちゃんだ。キリキリ起きたまえ》


 ほんの数秒の誤差でカプセルベッドの利用時間延長は嫌だからさぁ。


《下に窃盗犯の死体が転がってるから。降りるとき踏んでブーツ汚さないでね》


(まだ片づけられてないってことは朝に出来立ての死体かよ。物騒だな)


《もう身ぐるみ剥がれてるから何の価値もないよ。1分もかからなかったね。あとやっちゃったのはスーツちゃんなので口裏合わせておいてね。低ちゃんとスーツちゃんのカプセルベッドを漁るなんて、ホント運のないやつだぜ》


(はいはい、オレが殺したことにすりゃいいわけね。守ってくれてありがとさん)


 なんか足で蹴った夢見たのそれか。わざわざ28段目のベッドに盗みに入るかね。年に5、6人寝ぼけて落下死する高層カプセルホテルによ。


《前みたいに梯子で足踏み外さないでねー》






(これで終わりか、呆気ないもんだ)


 ぶっ壊れた『ロートル』から這い出て現地でやり繰りして五日。『本星』にも帰れずわずかな食糧を求めて喘いでいたのはオレたちだけじゃない。撃破されたが運悪く生き残っちまった連中がこの『世界』には何人も取り残されている。


《結構な人数道連れに出来たけど、生身に12.7ミリの掃射はどうにもなんないねぇ》


(スーツちゃんのお陰で貫通こそしなくても衝撃はどうしようもねえからなぁ…)


 破損した自機から引っ張り出して固定砲台的に無理やり使ってたんだろうな。このくらいの大口径ともなると弾が近くを通るだけで人なんてズタズタだ。逃げ回ったあげく殺し間に飛び込んじまった。

 いずれこれをやったヤツがノコノコ出てきて、転がってるオレたちの死体を干し肉にでもするだろう。


《今回もお疲れ様でした。物語ストーリー的にはイイ線行ってたのに残念だよ。底から這い上がるパイロットの物語》


(最初から体にあちこちガタが来てたし、生き残っても半年も保たなかっただろ。所詮、途中退場のわき役さ。あーあ、残機ゼロ。最後の人生悪あがきもこれでゲームオーバーだ)


 素人が5回もリスタートしたんだ。上出来だろう。


《条件は満たしてるからリトライできるよー》


(あれ? まだちょっと足りなかったんじゃね? 記憶と技能持ち越し)


 リスタートには『視聴率』がいる。多く『視聴率』を払えば知識や習得した技能、金なんかを持ち越せる。それがなんで『視聴率』を使うのか、どういう行動で溜まるのかはしらねえ。管理はスーツちゃんがしてる。なんか細かい数字は出せないみたいで『いっぱい』とか『ちょろっと』とかふわっとした表現になるから分っかんねぇ。


 つーか、視聴率って誰が見てんだよ? 


《全項目ランダムぶっぱで一回だけできるのさ。運試ししようぜぃ》


(ハンデてんこ盛りのブ男とかになったら嫌だなぁ)


《それでもスーツちゃんだけは愛してあげるっ。じゃ、ダイスロォールどぞッ》


 スーツちゃん。正体はやっぱりスーツちゃん。他に言いようがないオレの相棒。肝心なところは話してくれない面白怪しい無機物お助けアイテム。こいつがいるからオレはまだ生きている。いや、生きていた。


(スーツちゃんは切り替えが早いなぁ。サヨナラ、こいつ)



 ―数千数万のダイスが転がる音―









「おっふ」


《クリティカルのバーゲンセールで草》


「こりゃスゲエ。世界が小さく見えるぜ」


《身長は30センチ以上縮んでるけどねー》


「潜在能力だけ見りゃ最高水準じゃんけ、特に運動能力」


《こりゃ人類飛び越えてるねー。まったく鍛えなくても国内アスリートレベルで、鍛えたら世界レベル逸脱しちゃうんじゃない?》


「まあ、問題は」


《ピンポイントでファンブルったねぇ》


「女子やん、この体」


《魅力判定でクリッてるのも草。ブ男よりいいじゃん?》


「マジで夜道が恐いなぁ。戸締りしとこ」


《今回はプロフィール情報メッチャ詰め込むから、一気に思い出さずにその都度チョコチョコ思い出したほうがいいよー》


「前回はニート拗らせて『底辺落ちした一般人』ってところからスタートしたからな。下だとそれだけで詳細なんていらんし」


《今回はまだ一般階層からスタートだから細かいプロフィールは必要だよ。でも生活は楽ぞよ》


「早く飯と入浴が楽しみたい」


《じゃあボチボチ行きまっしょい》


「スーツちゃんは語彙がひょうきんだなぁ」


《死語乙 今回もロボットと格差と戦いの世界にようこそ》


「この体なら適当に生きて幸せな老後が期待できるかもなぁ」


《無理ぞ 底辺でも一般でもエリートでも、ロボットで戦う未来だけはダイス振っても変えられないのだっ》


 Hello、World。テメーとは6度目だなクソ。次は長生きしてやるぜ。

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