25話 お祭りその2
僕達は祭りの屋台をある程度回っていると何やら人だかりが出来ている。
「なんだあれ?」
僕達は騒ぎの方へ向かうと人が人を襲っていた。
普通なら皆抑えにかかるだろうが、その男は大剣を振り回して暴れていた。
この町にある自警団という組織に入り、この町を守っている正義感の強い男ドクが彼の目の前に現れ注意していた。
「だから! 君、飲み過ぎだぞ! 落ち着け!」
「あぁ? うるせえ! 何お前、俺に命令してんの?」
男はふらつきながらドクに剣を振り上げる。
ドクは剣を抜き受け止めようとするが、酔っぱらいの剣は振り上げたままピクリとも動かなかった。
何故ならそこには先程まで誰もいなかった場所に大男が一人いから……。
いつの間に……。
気配はなかった。
視界にも入らず、気がついた時にはそこにいた。
酔っぱらいは何が起こったのかわからず驚いていたが、自分の腕を見て掴まれたことに気づいた。
「何だぁ~? てめぇ~」
「そこらへんにしとけ、今なら痛い目見なくて済む」
大男がそう言うと酔っぱらいの男は自分の手を握っている手を振り払おうとするが、全く動かず体をよじらせている。
あの大男……。
よく見ると、図書館であったレイスと同行していた男女の一人だ。
いつもは護衛しているのだろうが、今は僕の両親が見ている為自由行動という感じでたまたま来て喧嘩の仲裁に入ったようだ。
「離せ! この!」
男は必死にもがくが、彼の手は動かなかった。
「はぁ~、はいはい……」
大男はため息をつき、酔っぱらいの男の手を放す。
酔っぱらいはよろけてこけそうになるが、何とか体勢を立て直すと大男を睨む。
「てめぇ、俺を誰だか知らねぇのか?」
大男は手を肩の方に挙げながら、酔っぱらいを馬鹿にしたようにみる。
大男は更に首を傾げると、酔っぱらいに笑いかける。
「知らねぇな。 まず名前を聞いてないんでな……」
大男がそういう。
酔っぱらいは大男を見て馬鹿笑いをする。
「無知ってのは辛えな! 俺は
オクト―は誇らしそうに言うと大男は彼を見ながら笑っている。
黒獣牙はこの辺りに王国近くを根城にしている盗賊だ。
普段なら遠くの地の此処に来ることはないのだが……。
目の前にはその黒獣牙の一員を名乗るオクトーとレイスの護衛の大男が一触即発の雰囲気を纏っている。。
「ほう? お前みたいな弱い奴が一員なら、その盗賊も大したことねぇんだろうな」
「なに?」
「黒獣牙と一度交えた事あってな……。 皆、お前なんか足元にも及ばんぞ」
オクトーが男にそう言われ睨みつける。
黒獣牙の一員を名乗るオクト―に睨まれても大男は動じず、変わらず馬鹿にしたように彼を見ている。
オクト―は持っていた剣を構えにやりと笑みを浮かべる。
「良いぜ! お前をいたぶって気分を晴らすことにしたぜ」
「酔っぱらってるのに随分余裕だな」
見た所大男は何も帯刀しておらず、斬りかかられれば守る物は何もない。
「良いハンデだろうがよ!」
悪役のテンプレのような言葉をいうと大男に襲い掛かる。
大男は頭をかきながら面倒くさそうに男をみる。
「ハンデねぇ~」
オクトーが剣を振り下ろすと、そう言って難なく右手で受け止める。
男はよく見ると薄くて見えにくいが、青と緑のオーラを纏っていたので魔力の糸で受け止めたのだろう。
ミリーから聞いた話だと、魔力を編むと剣は切れにくくなると言われている。
その中でも拳を主に使う物はそう言う魔法を使うことが多いのだとか……。
ということは魔法拳士ってわけか……。
だが普通は拳士用の武器はある筈だ。
なのに彼はそれを使うまでもなく、あっさりと彼の大きい剣を受け止めた。
僕から見てもわかる。
大男とオクト―には実力に雲泥の差がある。
「この程度か?」
「くそ! 離しやがれ!」
オクト―は必死で剣を引こうとするがまるで剣が動かない。
「はぁ~。お前、魔法も使わねぇのかよ」
大男は剣を離す。
オクト―はそのままよろけて後ろに尻もちを着く。
「この場は見逃してやるからいけ、そして大将に伝えろ。 俺達はその辺で野宿してる。 この村に報復したら、容赦しないとな」
そう言う男の顔には物凄い圧があり、酔っぱらいは青ざめている。
男は酔いがさめたのか、先程の千鳥足ではなく、大男とは反対の方向に走り去っていく。
大男はオクト―が消えたのを確認すると歩こうとする。
大男と僕の目が合う。
「おぉ、さっきぶりだな小僧!」
男は先程の無口とは違い大きな声で僕に言う。
「やはりレイスさん護衛の方でしたか……」
「あぁ、そう言えば名前まだ名乗っていなかったな。 俺はグルスってんだ。 よろしくな、坊主」
「サウルです。」
「そうだ、よかったら俺達と回らないか?」
俺達?
「何を考えているのですかグルス」
彼の横で女性の声がしたので見ると緑髪にエルフのような長い耳にサングラスをかけ眼は見えないが、エルフと思わせる程の綺麗な顔をした女性がグルスの横に立っていた。
「そうは言ってもなテオ、あれは放っておけんだろう」
「そんなことは言っていません、何故あいつを逃がすのですか?」
テオと呼ばれた女性は綺麗な声だが、淡々と言葉でグルスに問いかける。
「あいつか? あいつは黒獣牙じゃねぇよ」
「理由は?」
「大体あんな何でも喋る奴がお尋ね者なわけねぇし、下っ端にしては弱すぎる」
確かに盗賊にしては警戒心が無さすぎる。
街中で盗賊と名乗れば全力でとらえられるし、下手すれば仲間にだって被害が及ぶ。
下手なことはしないのが得策の筈だ。
「それでも尋問するべきです。 名乗った以上は情報を持ってる可能性がある」
「やめておけ」
「………」
彼が真剣にそう言うとテオは黙る。
黙っている彼女にグルスは笑顔で彼女の頭に手を乗せる。
「それよりも今は楽しんで来いって言われたろ? 楽しもうぜ」
「わかりました。 でも、デート中なのでは?」
テオは僕の後ろにいる二人を見る。
グルスも何かを察したのか、
「あ~、そう言うことか。 邪魔したな坊主」
そう言って波乱の如く去っていく二人なのだった。
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