第14話



父は衰弱しきったユリウスを助ける為に帝国の名医達に声をかけ、最上級の医療をユリウスに提供した。

容態が安定するまでは面会禁止とされ、しばらくはユリウスに会えない時間が続いた。



数週間後、ようやく容態が安定したということで面会の許可がおりた。それに喜ぶ私に父は優しく「お父様と一緒に新しい家族に会いに行こう。」と言ってくれた。

ずっと兄弟が欲しかった私は、新しく弟ができるのが嬉しくて嬉しくて…庭に咲いていた花を摘んで父と一緒にユリウスに会いに行った。



久しぶりに見たユリウスは、父が邸に連れてきたよりも大分顔色が良くなっていた。だが、身体に巻かれたままの包帯が痛々しい。

何だか私は急に気恥ずかしくなり父の足にしがみついた。



「ユリウス、お見舞いに来たよ。ほら、前に話していたお前のお姉様と一緒だ。」



そう言って父は優しく私の背中を押し、ベッドの上にいるユリウスの傍らに私を近付けた。

私と父の突然の訪れに驚いたのだろう。ユリウスは大きく目を見開いた。



「…エリザ?」



私の名を愛称で呼ぶユリウスに親近感が湧き、不思議と気恥ずかしさは無くなった。



「そうだよ!私のこと知ってたんだね!!私ね、ずっとユリウスに会いたかったの。」

「…僕も、あなたに会いたかった。」

「本当!?あ、そうだ…これお見舞いの花。庭に咲いていたの。元気になったら一緒に見に行こうねっ。」



ユリウスは戸惑いながらも綺麗にラッピングされた花を受け取ってくれた。

本当は、庭に咲いていたのをそのまま引っこ抜き、土が付着した状態のままユリウスの元へ持っていこうとしていたのだ。それに侍女達が気付き慌てて土を落として綺麗に紙に包んでくれたのだ。


今思えば土が付いたまま持っていかなくて本当に良かった、と心から思う。当時の侍女達には感謝しかない。



「…カモミール」

「この花ってカモミールっていうの?」

「そうだよ。」

「ユリウスは物知りなんだね!」

「そんなことないよ。…花、ありがとう。今まで僕に花をくれた人なんて居なかったから…嬉しい。」



そう言ってユリウスは初めて笑顔を見せてくれた。



「あ、ユリウスの目は蜂蜜色なんだね!とっても綺麗。」

「…あなたのエメラルドの瞳の方が綺麗だよ。」

「ふへへへ。」



真っ直ぐな目をして言うものだから、素直に照れてしまった私は気持ち悪い笑い方になってしまっていた。

そんな私とユリウスのやり取りを後から見守っていた父は「ごほんっ」と、咳払いをした。



「エリィ。これ以上はユリウスの身体に障るから、そろそろ休ませてあげよう。」



その父の言葉により、短い面会時間は終わった。

たった数分間の出来事だったが不思議なことに私はすぐにユリウスに懐いたのだ。





噂好きの侍女達から後から聞いた話なのだが、ユリウスは伯爵家の長男として生まれたそうだ。だが、伯爵はユリウスを認知しなかった。何故ならユリウスは伯爵の妻である伯爵夫人の不貞によって出来た子供だったからだ。

伯爵は自分と血の繋がった娘には大変愛情深く接していたが、血の繋がりの無い息子には酷いを扱いしていたらしい。


そんな伯爵は実に金遣いの荒さが目立つ男であった。目も当てられないほど贅沢の限りを尽くした結果、とうとう首が回らなくり、追い込まれた伯爵は妻と娘を連れてお隣のデューデン国への逃亡を図ろうとした。息子であるユリウスを捨てて…。

逃亡の際に弱っている子供なんて足手まといにしかならない。元々自分の子供だと思っていなかった伯爵は罪悪感を感じること無く、むしろ忌々しい不貞の子をやっと始末できたと、清々した気持ちで森に置き去りにしたそうだ。


吐き気を催すほどの醜悪だ。


国境付近を彷徨っていた伯爵達を取り押さえたのは皇帝陛下の命を受けた私の父だ。

伯爵と夫人は金に魅入られ、人身売買、子供たちを使った売春行為等の違法に手を染めており前々から帝国にマークされていたのだ。捕らえられた伯爵は当然爵位を剥奪され、夫人と共に牢獄へ、幼い娘は修道院に入ることとなった。



そして、父は森で瀕死状態のユリウスを見つけ出し邸へと連れて帰ってきたのだ。

シューンベルグ公爵家の跡取りとして育てるために。

…ここで不思議なのは何故、父は後継者にユリウスを選んだのか。森で見つけた彼に何かを見出したのだろうか。今だにユリウスの過去は謎が多い。何となく触れてはいけないような…子供ながらにそう思っていたのだ。


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