第10話 冒険者




冒険者ギルドに向けて歩きながら、《鑑定EX》で冒険者ギルドについて調べてみた。


前世の知識が間違ってなければ冒険者とは、魔物を倒したり薬草を採取したり街で猫を探したりするお仕事だと解釈している。


つまり何でも屋ということだ。


そして、その解釈は間違っていなかったようだ。


そして《鑑定EX》によると、冒険者とは依頼をこなすことで徐々に信用を上げていき、ある一定基準まで上げると昇格試験を受けることができる。


その昇格試験に合格することで冒険者ランクを上げることができるのだ。


冒険者のランクはS〜Fの7段階存在し、登録したばっかりの冒険者は全員Fランクとなる。


Fランクとはいわゆる研修期間であり、冒険者の会員証も発行されないのである。冒険者として基礎となる知識を学び、その基礎知識を学んだ上で一つ依頼をこなすことで昇格条件を満たしEランクの昇格試験を受けることができる。


その昇格試験に合格することで正式に冒険者になることができるのだ。


そしてそのタイミングで冒険者の会員証であるカードが発行される。


しかし、Eランクより上の昇格条件は明記されていない。ギルドの受付嬢やギルドマスターが実績を見て昇格の判断を行うのだ。


実力があっても実績がない人や、実績があっても実力がない人は昇格試験に合格できないことが多く、そんな冒険者を推薦する受付嬢やギルドマスターは評価が落ちるので、ギルド側も冒険者の昇格の判断には細心の注意を払っている。


そんな昇格試験を乗り越えることで冒険者も自信がつき、今後の冒険者稼業にも精が出る。


ちなみに高ランクの冒険者は国からの勧誘を受けることもあり、声をかけられた冒険者はそのまま国に使えることもできる。その際も冒険者を辞める必要はない。


一部例外はあるが。


「へぇ、結構高待遇なんだねぇ。」


私は串に残った肉の最後を口に放り込むと、目の前に佇む建物に目を向ける。


目の前の建物は、外観がとても東京駅に酷似している建物だった。レンガ調の外壁にいくつもの窓がついているこの建物は、街の大通り沿いに正面玄関を構えていた。


そしてこの建物こそが、王都にある冒険者ギルド王都支部なのである。


「これ完全に東京駅じゃん...東京駅いったことないけど」


携帯で[東京駅]で検索すれば画像が出てくるから建物の外観は知っていたが、まさかここまで同じだとは思わなかった。


この建物を作った人は日本からの転生者なのかな?それとも東京駅を作った人がこの世界からの転生者?


創造神様!どっちなんですか!!??



....あ、どっちも違うんだ。なんかすみません。


気を取り直して中に入っていきます。




中はとても広く、ある意味役所といっても良さそうな雰囲気だった。


正面には受付があり、「依頼発行」「依頼受注」「素材査定、売却」「新規登録」の4種類の窓口があり、冒険者が列を作って並んでいる。壁際には依頼書が貼り付けられた枠があり、そこに貼り付けられた依頼書には依頼内容と報酬、そして推奨ランクが印字されている。そして酒場も併設されており、テーブルにはすでに飲んだくれている冒険者がいた。


まだ昼なのにあんなに飲んじゃって、今日はもう終わりなのかなあ?


私は正面受付の「新規登録」の列に向かった。その窓口には誰も並んでおらず、座っていたメガネ女性の受付嬢も暇そうにしていた。


「あの、すみません」


「はい、冒険者ギルド王都支部へようこそ。受付のエリンです。」


私が声をかけると、即座にシャキッとした受付嬢さんはにこやかな笑顔で応対してくれた。


ほぉぉ!!コンシェルジュみたいだ!!さすが王都!!


エリンさんね、名前覚えた。


「冒険者登録をしたいんですけど...」


「かしこまりました!こちらの申込書に名前と年齢、種族を記入してください。文字が書けない場合は代筆しますがいかがなさいますか?」


うーん、私は《言語理解》持ってるから全部読めるんだけど、書くのはできないんだよね。


「代筆をお願いします。」


「かしこまりました。お名前は?」


名前、この世界で私の名前って何がいいかな。


前世は七海あおいだからそのままでもいい気がするけど、せっかくクジラに生まれ変わったんだしクジラ要素も入れたい。


しかしここで問題発生、私には絶望的にネーミングセンスがないのだ。


「........」


「...あの、お名前は?」



クジラ、鯨、くじら...。海、マリン、Sea.....


だめだ、わからない。






「....アオ、でお願いします。」


結局、前世で親から呼ばれていた名前で決まった。


あおいだから、アオ。簡単でしょ?


「アオ様ですね。年齢はおいくつですか?」


「17歳です。」


間違ってはいない。前世では17歳だったのだから間違いではないはずだ。


「17際ですね...種族はなんでしょうか?」


種族...私クジラだからなぁ、今は一時的に人の姿とってるだけだからなぁ。


どうしようかな....


「えぇぇ......と.....」


言い淀んでいる私に受付嬢が眉をひそめた。


どうやら怪しまれているらしい。


さて、それっぽい種族名を考えるか。


私がそう考えていると、


「おい嬢ちゃん、言いたくないなら言わなくてもいいぜ。」


背後から低い男性の声が聞こえた。


ビクッとして振り返るとそこには筋肉隆々のガチムチのおじさんがTシャツを着て立っていた。


そのおじさんは私の肩に手を置くと


「言いたくないなら言わんでもいい。俺が許可する。」


そう言い放った。


その目には何やら確信したような


この人、、、私の正体に気がついてる?


正面の受付嬢も男性に声をかける。


「いきなり声をかけないでくださいよ、怖がってるじゃないですか!ギルマス!」


「いやぁ、珍しい姿の娘がいたんでついな、悪かったな嬢ちゃん。」


ギルマスと呼ばれた男性はガハハと声をあげて笑っている。


「い、いえ、大丈夫です。」


私は視線を受付嬢へ戻すと、受付嬢は


「はぁ、ギルマスがいいっていうなら私は何も言いません。後で説明お願いしますね?」


「おう、後で来い。」


よくわからないけど解決したようだ。


「それではこの水晶玉で適性検査をします。魔法の適性がある場合はこの画面に表示されますので確認してください。」


受付嬢の言葉に従って私は水晶玉に手を伸ばしたが、触れる直前でふと考える。


私って今、魔力が漏れないように膜状に結界を纏ってるけど、この状態で触ったらどうなるのかな?


適正のある魔法にどでかく《時空魔法》とか表示されちゃうのかな...?


ちょっと目立ちそう。


「おい嬢ちゃん、それもやんなくていいぞ。」


「へ?」


ギルマスが私の手を掴んで水晶玉に触れる前で止まった。


「な、なんでですかギルマス!?さすがにそれはやってもらわないと依頼が紹介できないでしょう!?」


「いや、いいんだ。そのままF飛ばしてE級のカード発行してやれ。」


「ギルマス!!さすがにそれは規定に反しています!」


「いいからいいから、俺が責任を取る。」


「...わかりました。アオさん、どうぞこちらへ。」



な、なんだかよくわからないけど、研修期間飛ばして正社員みたいになったのかな?



すぐ隣の受取窓口に案内された私は、その場で冒険者の会員証を渡された。


鉄で作られたE級の会員証には顔写真とランクがそれぞれ明記されていた。


「紛失した場合は再発行に銀貨10枚必要になりますので、お気をつけください。」


こんなことで余計な出費はしたくないよね。なくしちゃいけない。絶対。


そんなわけで私はめでたく冒険者になった。




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