第42話 村での日常風景(1)

 それから三日間、冒険者たちは村でゆっくりと過ごした。


 ウォルト村はそれほど観光地として栄えているわけでもないのだが、村の中を出歩いていればさまざまな出会いがある。


 例えば、このようなことがあった。


 その日の昼、村の中を見て回っていた冒険者一行──ケヴィン、ワウ、ルシア、ジャスミンの四人は、一軒のこじんまりとした店の前で立ち止まる。


 あまり手入れがされた様子のない店の看板を、ルシアが覗き込んだ。


「『グードン装飾品店』だそうです。アクセサリーショップみたいですね。入ってみましょうか?」


「そやね。せっかくやから品物を見させてもらおか。──少年はこういうの興味ないかもしれんけど、ちょい付き合ってや」


「いえ、全然大丈夫です。俺もこういった辺境の村の文化には興味がありますし」


「ワウも綺麗なものには興味あるぞ!」


 そんなわけで、四人は店の扉を開いて中へと入っていく。


 店内は狭く、薄暗かった。

 四人が中に入ると、それだけでぎゅうぎゅう詰めになるほどだ。


「おう、お客さんか。商品にはみだりに触らんでくれよ」


 冒険者たちが店に入ると、カウンターを挟んで向こう側にいたずんぐりむっくりとした髭面が、不愛想にそう言った。


 カウンターの向こうで熱心に作業をしていたのは、一人のドワーフだった。

 彼がこの店の店主なのだろう。


 店内にはいくつかの装飾品が飾られていて、それぞれに値札が付けられている。

 どれも金貨十枚以上の高級品だ。


 それらの装飾品類を眺めて、ジャスミンが鋭く目を細める。


「……なあドワーフのおっちゃん、この装飾品に使われてる石って、ひょっとしてどれも紫鉱石しこうせきなんやないか? しかもこの加工の良さ……よっぽどのもんやろ?」


 盗賊ならではの目利き能力。

 その言葉に、ドワーフはぴくりと反応した。


 彼は口元をニヤリと吊り上がらせ、作業を中断して冒険者たちのほうを向く。


「ふんっ、いい目を持っているようだな。ハロルドを護衛してきた冒険者か」


「ハロルドを知ってるのか? あいついいやつだよな!」


 ワウが言うと、ドワーフはふんと鼻を鳴らした。

 そして少しだけ愉快そうな口ぶりで言う。


「お得意様というやつだ。ハロルドのやつは年に一度村に来て、うちの売れ残った在庫を根こそぎ買い付けていく。『これを遠方まで運んでいって、貴族どもに十倍の値段で売りつけるのだ。ワッハッハ!』などと言う」


「十倍か、すごいな! たくさん売れたら大金持ちだ!」


「ああ。紫鉱石はこのあたりの山でしか採れんのだから、そういうこともできるらしい。品が良いからできるのだと言われれば俺も気分がいい。もっともこの村じゃあ、この値段でも買う者はほとんどおらんがな」


 ドワーフの店主は「商人というのも、なかなかどうして大したものだ」と付け加える。


 ワウ、ルシア、ジャスミンの三人はその後、店内の装飾品をひとつひとつ見て感動したり、自分の財布の中身を覗いて難しい顔をしたりした。


 一方でケヴィンが注目したのは、店の奥に立てかけられた一振りの戦斧バトルアックスだった。

 少年はドワーフに問う。


「その斧。グードンさんも、戦士なんですか?」


「ん……? ああ、これか。そうだな、たしなみ程度の腕だが、ゴブリンぐらいなら倒せる。こんな辺境の村じゃあ、助けを頼んでもすぐには来んからな。ちょっとしたモンスターぐらいは、自分たちの手で追い払わねばならん」


「へぇ……! じゃあ村の人たち、みんな戦えるんですか?」


「男どもはだいたいな。だがお前さんたちのような戦いの専門家には、到底かなわんよ」


 その後、冒険者たちは悩んだ末に装飾品をいずれも買わずに店を出たが、「冷やかしなら帰ってくんな」と言ったドワーフの店主の声は、少し楽しそうだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る