第11話 ギルドの長
「すみません……。Dランク三人と、Fランク一人のパーティでは、D+ランクのクエストを受けていただくことはできないんです」
「ま、そうなるわな」
ケヴィンら一行が冒険者ギルドに入ってクエスト受付窓口へと向かうと、受付嬢から、クエスト受注は認められないと言われてしまった。
冒険者ギルドの規定では、高ランクのクエストを受注するためには、それに見合った冒険者ランクが必要となっているのだ。
ケヴィンは前に出て、受付嬢に疑問を投げかける。
「依頼人の方との話がついていても、ダメなんですか?」
「はい、冒険者の身の安全も考慮されてのランク制度ですし……。いずれにせよギルドの規定ですので、公平性を保つためにも簡単に例外を認めるわけにはいかないんです」
「ですけど、人の命が懸かっているんです。どうにかなりませんか」
「うーん……。すみませんが、私では判断ができません。ギルドマスターに話を聞いてまいりますので、ちょっと待っていてもらえますか」
ケヴィンたちが了承すると、クエスト窓口の受付嬢はギルドの奥へと引っ込んでいった。
やがて受付嬢は、一人の壮年男性を連れて戻ってくる。
その男性はひょろっとした猫背の人物で、どこか眠たそうな顔をしていた。
髪はボサボサで無精ひげも生えており、あまり見栄えがいいとは言い難い雰囲気だ。
「あー、キミらかい? ランクが足りないのにクエストを受けさせてほしいって冒険者は。俺は一応、このギルドのギルドマスターをやらせてもらっているヒューバートってもんだ。詳しく話を聞こうか」
ケヴィンらは、現れた壮年男性──冒険者ギルドのギルドマスター、ヒューバートに事情を説明した。
ひと通り説明を受けたヒューバートは、バリバリと頭を掻く。
「なるほどなぁ、事情は分かった。さっきの騒がしかったやつの続きってわけな。依頼人にも問題はあるが、人情としちゃあ分かる話だ。さて、どうしたもんかね」
彼は腕を組み、人差し指でトントンと腕を叩きながら考え込む。
その口からはこんな言葉が漏れた。
「うちの商売を見ないことにすれば、今回だけ目をつぶってギルドへの依頼をキャンセル、依頼人とキミたちとで直接交渉したってことにしてもいいんだが……いずれにせよキミら、歌声山をどう攻略するつもりだい? 新人連れのDランクパーティじゃあ、あそこは相当ヤバいぜ?」
「ケヴィンは新人でも、すごく強いから大丈夫だぞ! Dランクのワウよりずっと強いからな!」
ワウがそう答えると、ヒューバートの眠たそうだった目が、鋭く細められる。
「ほう、有望な新人ってわけかい。それでケヴィンってのは……キミか。なるほど、言われてみれば、ただ者じゃない雰囲気はあるね」
ヒューバートが、ケヴィンをじろじろと見てくる。
ケヴィンは少し居心地の悪さを感じながらも、その視線をおとなしく浴びていた。
そこに盗賊のジャスミンが、ダメ押しを加える。
「ケヴィンは一人でミノタウロス一体を撃破したんよ。それも圧倒してな」
「……なんだって? 新人がミノタウロスを一人で倒した? にわかに信じられない話だな」
「私も見ていました。間違いなく、ケヴィンさん一人でミノタウロスを倒しています。私たちは三人がかりで一体を倒すのが精一杯だったのに」
「へぇ……。そいつが事実なら驚きだ」
魔導士ルシアの証言も加わり、ヒューバートの眼差しがますます鋭くなった。
ケヴィンを含め、冒険者たちは息をのむ。
このギルドマスターは、次に何を言うのか──
するとヒューバートは、ニッと笑ってこう口にした。
「よし、分かった。じゃあ少年、俺と模擬戦をやろう」
「「「……は?」」」
「えっ……俺、ギルドマスターと戦うんですか?」
「いやー、俺もたまには本気で体を動かさないと、鈍っちまうもんでさ。こっちついておいで、少年。──おーい、ちょっと訓練場使うよ」
そう言ってヒューバートは、飄々とした様子で、ギルドに併設された訓練場の方へと向かっていく。
ざわついたのは、ギルドにいたほかの冒険者たちだ。
「ギルドマスターが、模擬戦するって……!?」
「ヒューバートさんって、たしかAランク冒険者だって話だよな」
「相手は誰だ? ……おい、誰かあのガキ見たことあるか」
「あ、あいつ知ってるぜ……! つい三日前ぐらいに冒険者登録してたガキだ! 美女三人組のパーティに、なんかひょっこり潜り込みやがったやつだから覚えてる!」
「おいおいおい、どういうことだよ。あんまりけしからんから、ヒューバートさんが制裁を加えるってことか?」
「そ、そうか、それだ……! いいぞヒューバートさん! そんな羨ましい、じゃなかった、そんな生意気なガキ、ボコボコにしちまえ!」
何だか分からない方向に盛り上がりを見せる、周囲の冒険者たち。
そうした周囲の反応にあきれ顔になるのは、三人の女性冒険者だ。
「この冒険者ギルド、アホしかおらんのかいな……」
「ああ! ワウたち以外、みんな頭悪いな!」
「あはは……ワウちゃんそれ、突っ込み待ちかな?」
いろいろな意味で辛辣な言葉が、少女たちの口から飛び交っていた。
一方でケヴィンはというと──
(ギルドマスターは、Aランク冒険者なんだ。どのぐらい強いんだろう……!)
わくわくを隠しきれないという様子で、ギルドマスターのあとを追う。
この聖騎士見習いの少年は、かわいい顔をして意外と戦闘狂なのであった。
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