ちびっ子には見せられないよ！魔法少女と、その使い魔。

第25話 変化と覚悟

「──なんだ？　あの人だかりは」

　月曜日の放課後。

　部活があるのでグランドへ向かったところ、部室の前に謎の人集りが出来ていた。

　そして少し離れたところには、露骨に機嫌の悪そうな姫乃先輩の姿が……。

「ちっ、これだから男共は！」

　触らぬ神に祟りなし。

　あの舌打ちを見て、予感が核心に変わった俺は、ゆっくり後ずさり逃げようとした。

　しかし、時すでに遅し……。

　姫乃先輩は俺に向かって手を上げ、人差し指をチョイチョイと動かし、自分の元へ来るように命じた。

　俺は肩を落とし、命令に従う。

「姫乃先輩お疲れ様です。あそこの、人集りは何ですか？」

「あのクソ野郎どもの中心には、澪が居るのよ。可愛いのを知った途端にこれだから、死ねばいいのに」

　口調が……。後、殺意がヤバい。

　も、もしかしなくてもあのヘアピンが原因か？

　元より相澤は、あの髪さえ何とかすれば、普通に可愛かった訳で。

　それを知った男性部員が、彼女を取り囲んでいると……。

　って事は、今の状況を作り出したのは、間接的に俺の責任で──。

「──日輪君、何か心当たりはないかしら？」

「し、し、し、知りませんよ……。なんで俺に聞くんですか？」

　白を切れ、白を。

　秩序を崩壊させた俺を、この人が許すだろうか？　いや、許すはずがない。

　良くて折檻、最悪生きては帰れなくなる。

　俺は動揺をひた隠しにてして、冷静さを装った。

「……いえ、何でもないわ」

　姫乃先輩は、面白くなさそうに人集りに向かい歩いて行く。

　……これは、セーフってことでいいのか？

　疑われた様子もない、どうやら助かったようだ。

　しかし姫乃先輩も俺に目星をつけたってことは、相澤のストーキング癖を知っている可能性が高いな。

　それで今回の怒りの原因は、さしずめ学園のアイドルたる地位を揺さぶられているこの状況が気に食わないと言うところか？　くわばらくわばら。

　どちらにせよ、これは早々に退散したほうが……。

「──おい、ノア！」

　逃げようとした、その時だった。

　このタイミングで、一番顔を合わせたくない男が、よりにもよってこのタイミングで現れ、このタイミングで声を掛けてきたのだ。

「なぁーんで、あのヘアピンを相澤ちゃんがしてるんだよ。小夜ちゃんにあげるって買ってっただろ!!」

「おぉぉい──静かに!!　一樹シャラップ！　これには深ーい理由が……」

　俺の胸ぐらをつかみ、ツバを飛ばしながら大声で問いただす一樹。

　しかしその後直ぐ、彼は目を見開き言葉を失った。

「──そう、日輪君。私に嘘をついたって訳ね？」

　あっ、終わった。

　何もかもが終わった……ッ。

　一樹は、とても恐ろしい物でも見たように震え手を離す。

　そして言うまでもなく、俺はそれ以上に恐怖を感じていた。

「ノ、ノア覚えてろよ！　あ、後で事情は聞かせてもらうからな！」

　小物の悪党のような捨て台詞を残し、俺を置き去りにして一樹は逃げ出した。

　俺はというと、

「覚悟は、出来てるわよね？」

　姫乃先輩に背後から肩を掴まれ逃げることも出来ない。

　おかしい、まだ練習も始めていないのにシャツは汗で濡れ、喉がカラカラに乾く。

　普段なら、こんな事を思うことはないだろう。

　しかしこの時だけは違った。

　出来ることなら、一樹に事情を説明してやりたいと。

　だってそれは、今で終わるのではなく、次があると言うことなのだから……。