第7話 ゾーオ戦闘

「良かった、まだ大事にはなって無い様だ」


 俺は屋上に出てすぐ、外周に立つフェンスの一角に頭から突っ込み、下を覗いた。


 ゾーオが取り付いていた男子生徒は、教員を含む数人掛かりで取り押さえられているようだ。

 しかしそれなのに今だ抵抗を見せ、時折手足を振り解いている。

 普通の学生が出せる力ではない。


 顔を引き抜き、後ろを見る。


「長く持ちそうにない。相澤、早く変身するんだ!」

「うん分かったよ、使い魔さん!」


 相澤は何処からか、ゴムの付いた鈴を取り出し裏髪を結った。

 そして彼女はうつむき、右手を胸の上に置く。


「メタモル、フォーーゼ!」


 変身の魔法を唱えると、昼間なのに周囲は輝き、キラキラと幻想的な雰囲気をかもし出す。

 相澤が少し浮き、彼女の着ていた衣類は弾け、伸ばされた反物たんもののような布生地に変わる。

 体の周囲を球体状に舞う生地は、彼女の体に巻き付き、その後白とピンクを基調とした、アイドルのようなヒラヒラとした衣装に生まれ変わた。


 こうして、魔法少女の衣装に身を包んだ、相澤澪へと姿を変えたのだ。 


「変身完了。って使い魔さん、そっぽ向いてどうしたの、終わったよ?」

「べ、別に……なんでもない!」


 見ちゃった、結構しっかりと、ガッツリと。

 局部こそ見えなかったけど、透ける布越しに、ボディーラインははっきりと。

 相澤の体は、成熟してない少女と言った感じだった。

 言い換えて見ると、少し幼児体型?

 締まるところはしまっているが、お尻は小ぶりで、胸は少し膨らみを見せていた。

 でもむしろ、それが官能的だったと言うか、刺激的だったと言うか……。って俺は、何を考えてるんだ!


「使い魔さん、触れるね」

「ひゃいっ!?」


 煩悩と戦っていると、彼女の指が俺の首筋に触れた。

 ビクッとした、本当にビクッとした!

 

「コネクト!!」


 相澤が魔法を唱えた瞬間、俺の首輪から赤いリードが伸び、彼女の手を繋ぐ。

 俗に言うこれが、魔法少女と使い魔の間に、バイパスってのが繋がった状態だ……っと思う。


「手を掲げて、人祓いの結界を貼るよ」

「こ、こうか?」


 言われた通りに手を空に向けた。

 すると直ぐ、赤いリードを通して相澤から魔法の源である恋する感情、魔力が流れ込む。


「結界魔法アジール!!」


 彼女が魔法を唱えた瞬間、光り輝く巨大なドームが学校を中心に広がっていく。


「凄い、本当に誰も居なくなった」


 結界が張られると人は消え、ゾーオだけが取り残されている。


「アジールは『魔法世界と現実を隔てる結界。この世界に居られるのは、魔法に精通したものとゾーオだけにゃ……』って、シロルちゃんが言ってたよ」

「よ、良く分からないけど、今のを使えば人にも、現実の建造物にも被害が出ないんだな?」

「うん。維持が出来ていて、アジールに覆われている部分は……だけど」


 なるほど。アジールと呼ばれる結界魔法は、相澤の様子では全てを無かったことにしてる最強の盾、っと言うわけでは無いらしいな。


「あ、相澤見てくれ、ゾーオの様子がおかしいぞ……って、形が変わってく!?」

「あれは、もしかしれフェーズツー? どうやら進化したみたい」

「なんだよ、成長するとは言ってたけど、こんなの聞いてないぞ!!」


 二メートル近くあろうかと思われる大きなエイの形をしたゾーオが、さらに一回り大きく、さらに各部が鋭く、まるでステレス機のような形に姿を変えていく。

 あれがシロルの言ってた成長。

 人類にさらなる危険を与える形態……。


「でもまだ進化も終わってないし、きっと動けないはず。使い魔さん、今がチャンスだよ!」

「なんかズルくないか? って、言ってる場合じゃないな。行くぞ、相澤!」

「うん!」


 俺は右手のてのひらを、ゾーオの少し下めに向け構える。

 そしてもう片方の手で、右手を握り固定した。


 ──思い出せ、初めて彼女達と出会った日を。


 シロルから簡単な説明は受けた。

 彼女の使い魔は、言わば魔法を放つ砲身みたいなもの。

 気を抜いてると、体ごと反動で吹っ飛ばされる。

 そして何より一番重要なのは、相澤に事だと。


「分かってるな、相澤。抑えろよ? 手加減しろよ? 優しくだぞ?」


 あの時の魔法を、今度は俺が放たなけれなならない。

 だから念のために、くどいぐらい彼女に注意をうながした。


「…………えっと、それって全力でやれって振りかな?」

「アホ! こんな時にお約束を言うか。マジで抑えろよ」


 魔力が俺へと送られる。

 構えた手が輝き出し、光は掌に収束された。


「アムール・エクレール!!」


 相澤の叫びと共に、俺の手から放たれた閃光はグランドを穿うがち、地面を両断する。しかし、


「よ、避けられただと。あいつ、コッチに気付いてるどころか動けて!?」


 攻撃の魔法は、狙い通り真っ直ぐ飛んだ。

 しかし舞い上がる土煙の中、ゾーオの影が見える。

 あれだけの威力の魔法、当たれば五体満足でいられるはずが無い。

 あいつの影に欠損部位がない所をみると、避けられた証拠だ。


「相澤、もう一発だ」


 続けざまに、もう一度魔法を放つ。

 しかしそれも、あっけなく避けられてしまった。


「アイツ、昨日より早くなって──」


 ゾーオはまるで怒りを表すように体を赤く染め、俺達めがけ突っ込んできた。


「追ってくる、逃げるぞ相澤」

「う、うん!!」


 俺と相澤は屋上から飛び降り、地面すれすれを飛ぶ。

 ゾーオは屋上の外壁に激突し砕きながらも、逃げる俺達を追いかけてきた。

 遠距離を攻撃する手段が無いのか、ただただ追いかけて来るだけなのだが……。


 それでも軽々と校舎を砕く体当たり、あんなものにぶつかったらひとたまりもない、何とか距離を取らないと!


 校舎を盾に、外周にそって時計回りに逃げ回る。

 しかしどうしても、直線で距離が縮まってしまう。


「どうしよ、このままじゃ追い付かれちゃうよ!?」

「……くっ、相澤考えがある。ついてきてくれ」


 失敗したら、後がないかもしれない。

 でも今さら後に引くつもりじゃない、やるしかないんだ!


 外周を回ってた俺達は、東棟と中央棟の真ん中を通る。

 そして一階の渡り場を潜り抜けた直後、


「──相澤、反転だ。ここなら奴も上にしか逃げ場がない。避けきれないはずだ!」

「そうか、校舎でとうせんぼってことだね!」


 それだけではない、相手が何で俺達を視認してるか分からないが、もし視覚で認識しているなら、渡り場を死角に出来ないかと思ったのだ。


 案の定、ゾーオは踊り場を砕きながらも、ただ真っ直ぐに俺達に向かって来た──。


「今だ相澤!」

「うん、必殺。アムール・エクレール!!」


 コネクト越しに、魔力が流れてくる。

 そして俺の手から放たれた閃光は、一瞬で目の前の大地を焼き、敵を焼き、空をも焼いた。


 そして一緒に、校舎までも……。


「…………えへー、ちょっとだけ手加減失敗しちゃった」

「──ってどこがちょっとだ! 東棟と中央棟が半壊したぞ!!」


 あの威力だ、ゾーオの姿も見えないし、間違いなく倒せただろう。

 しかしその代償として、十メートル以上間隔の開いてる校舎の真ん中を撃ったはずの魔法は、東棟、中央棟の半分以上を亡きものとしてしまったのだ。

 これは流石に、笑えもしない。


「直るんだよな──本当に直るんだよな!?」


 作戦を立てたのは俺、魔法を放ったのも俺。

 この状況に手が震えない訳がない、きっと生涯トラウマものだ。


「えへー。あ、シロルちゃんだ」


 話を逸らすように空を指差す相澤、するとその先から、シロルが飛んでやってきた。


「遠目で見てたにゃ、初戦にしては、中々スマートにゃ戦い方だったにゃ」


 おい、見てたなら手を貸せよ。

 それにこの惨劇がスマート? こいつ、絶対に感覚麻痺してるだろ。


 シロルの言葉に耳を疑っていると、彼は近付き俺の肩を組む。そして、

 

「どうにゃ、罪悪感が凄いにゃろ?」


 っと、耳打ちをしてきたのだ。


 コイツ、分かってて!?

 

 シロルの奴は不敵な笑みを浮かべ「これで同族が出来たにゃ」っと、嬉しそうに囁くのであった。


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