第2話 異性の後輩と同じ部屋で
「写真が八枚、写真が九枚……」
可愛らしい、小鳥さん達の鳴き声がチュンチュンと聞こえている。
カーテン越しには柔らかな光が部屋に差し込み、なんとか無事に朝を迎えることが出来た事を告げていた。
「あれ、一枚足りない? なんてやってる場合か! 全然、全然寝付けなかった……」
魔法少女の従魔を始めて翌日の朝。
彼女の部屋の片隅で、俺はドキドキしながら体を丸めて居た。
もしかしてこの胸の高鳴りは、恋……?
──い~や違う、決して違う、断じて違う!
単純に自分のストーカーと一つ屋根の下、しかも同じ室内で寝泊まりしている恐怖に、他ならない。
目を閉じ眠ろうとしても、写真の中の俺が見ている気がする。
一枚も……一枚も視線がカメラに向いているものが無いのにだ!!
「早まった……。これなら借金の取り立ての方がましだったんじゃないか?」
昨日はあの後、相澤からストーキング相手。
つまり俺の自慢話を、永遠と三時間程聞かされた。
その時の様子からして、正体こそバレていないようだが……。
精神的に色々来ている俺が、虚ろな意識の中でボーッと後悔をしている時だった。
突然、相澤のスマートフォンの目覚ましが鳴り響く。
「んーーおはよう、使い魔さん」
「あ、はい。おはようございます……」
敬語になった。つい敬語になってしまった。
年下の女の子、しかも学校の後輩に。
相沢は伸びをすると起き上がり、ヘアバンドをとった。
そしておもむろに、自分のパジャマのボタンに手をかけ、上から一つずつボタンを外していく。
うん、花柄が付いた可愛らしいピンク色の下着……。
「じゃない。おぃ、ちょっとたんま! ストップ、ストーーップ‼」
「んっ? どうしたの」
「お、男の俺が居るだろ!! 少しは危機意識をだな」
俺は慌てて、手で顔を覆う。
ちょっとだけ隙間を開けて相澤を覗くと、にへらっとした表情で、特に気にした様子もないようだ。
「へぇ~、君は紳士なんだね。じゃあ、後ろ向いててよ」
自ら言った手前、俺は素直に裏を向く。
普通の男なら、年頃の娘の着替えが見れてラッキー、っとか思うだろう。
だーが、俺は状況が違う!
もし身バレしたとき、責任を取る事を要求してくる事を考える。
それただけで、股の間がキュッ! っとした。
「でも、キスもしちゃってるから今更なんだよなぁー……」
「えっ、何か言った?」
「言ってない。何も言ってません」
首をぶるんぶるんっと振った。
身バレだけはダメ、絶対。
キスだけじゃない。今しがた、もれなく覗きの罪まで重ねちゃったし……。
「おまたせ、着替え終わったよ」
俺は恐る恐る振り返る。
そこには学校の制服に身を包んだ、俺の知ってる彼女がいた。
魔法少女じゃない時の相沢は、少しだけ茶色の髪色をしたショートボブ。
前髪は鼻先まで届くほど長く、目を覆い隠している。
俺が見たことある彼女は、オドオドしたり余所余所しかったけど、私生活ではこんな雰囲気なのか……。
「……ってねぇ君、聞いてるの? 私は行くけど君はどうする?」
「えっ、もう行くのか?」
壁に掛けてある時計を見上げる。
電車通学の俺でも、まだまだ家を出ない時刻だ。
「いくらなんでも早すぎるだろ」
「うん。もう少し準備するけど、もうそろそろ出ないと間に合わないから」
もしかして日直か? それとも事前に教室向かい、掃除や花瓶の水を変えたりしているのだろうか。
そうだよな、危険を
本当は心優しいに決まって……。
「だって、ノア君の乗る電車に間に合わないから」
「──って、なんとなく分かってたわ!」
それと、握り拳を作って気合を表すな!!
そもそも当たり前のように言ってるけど、何で俺の乗る電車の時間を知ってるんだよ。
それに電車って、ここから学校に行くなら使う必要もないだろ。むしろ遠くなって……。
いや、言うまい、今さら何も言うまい。
相澤は眠そうに目を擦りながらも「それじゃ、行ってくるね」っと、部屋から出て行く。
…………ふぅ、危険は去ったか。
たったこれだけのやり取りで、随分と心をすり減らした。
俺は一息つき、気を緩める。
「──ひくっ! 澪のヤツもう学校いったのかにゃ?」
「っ!?」
ドキッとした、すっげードキッとした。
声がした方を恐る恐る振り返ると、昨日出入りしたベランダの窓に、一匹の猫がフラフラしながら立っている。
「な、なんだ……。相沢じゃないのか」
現れたのが要注意人物では無いと知り、ひとまず俺は、ホッと胸をなでおろしていた。
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