徒然怪奇譚

mao

第1話 小窓から出てきたもの

 これは、私がまだ中学生だった時のこと。

 初潮が遅かった私は、その頃は月イチでやってくるそれにまだ慣れていなかった。


 その日、午後の授業を受けている時から、何となく下着に嫌な感覚があった。

 放課後の学校はあちこち賑わっているし、騒がしいし、落ち着いた場所で確認したかったのもあって、友達の誘いを断って早々に帰ることにしたのだけど。


 どうやら事態は思っていたよりも深刻だったようで、まるで漏らしてしまったような不快感がどんどん強くなった。



「(どうしよう、替えの下着とナプキン入れてきてなかったような……家までもちそうにないかも……)」



 女の子の身体って面倒くさい。どうして毎月、股から血が出なきゃいけないんだろう。子供を産むのに必要なのはわかるけど、それにしたってまだ子供の時からこんな面倒なものと付き合わなきゃいけないなんて。


 困り果てた私は、ちょうど近くにあった古い公園へと逃げるように駆け込んだ。この公園はずっと昔からある場所らしく、遊具はもちろんのこと、トイレも随分と古い。さすがに水洗だけど。


 古い木造のトイレには薄汚れた手洗い場と、ふたつの和式トイレ、それから洋式トイレがひとつある。換気のためなのか、それとも別の理由があるのかはわからないけど、扉とは反対側の壁、その下部分には小窓――と呼べるかは微妙な横長の穴があった。こじ開けられたようには見えないし、きっと何らかの用途があるんだろう。



「うわ……やっぱりだ……」



 洋式トイレに座って下着を下ろすと、そこは真っ赤に染まっていた。制服のスカートに染みていないのがせめてもの救いだ。汚れてしまった下着を取り敢えず脱いで、鞄の中を漁る。本当にナプキンも替えの下着も入れてなかったかなぁ、ダメ元で探してみよう。


 そう思った時だった。

 足元に空いている穴の中から勢いよく人の手が突き出てきたのだ。


 その手は私が床に落とした下着を鷲掴みにして、さっさと出て行く。あまりにも一瞬のことすぎて、何が起きたのかもわからなかったが、徐々に頭が冷静になっていくと嫌でも現在の状況を理解し始めた。


 血で汚れた下着を、どこの誰ともわからない不審者に強奪されたこと。

 こうしている今も、相手が外にいるかもしれないこと。

 この場所が人気のない公園で、助けを求めるには自分の足でここを出なければいけないこと。


 怖かった、あまりにも怖くてしばらくその場を動けなかった。

 結局、私はこの日、どうやって家に帰ったのかをよく覚えていない。

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