【016話】それぞれの役割
◆◆◆◆◆
青白い顔で後退りしたロディアは、四方を
「こんなところへ連れてきて何をするつもりですか。……ま、まさか」
勘繰ったロディアは半身を引いて身構えた。
イチルはロディアの全身を上から下まで確認し、さらに一歩距離を詰めた。
「お、お願いです、それだけはやめてください。乱暴だけは……、キャッ!」
イチルに腕を掴まれたロディアは、これから自分がどうなるかを想像し顔を背けた。しかしロディアの反応に対し細い目をしたイチルは、彼女の顔を反対へ傾けてから、真っ直ぐ立てた指先を、同じ方へ向けてやった。
「どんな卑猥な想像をしてるか知らんが勘違いするなよ。君にはこれからやってもらう仕事がある。妄想は後にして、まずはしっかり準備をしろ。あと悪いんだが……、先に言っておくと、俺はガキに興味がない。抱いてほしければ、もう少し大人の女になることだな」
「へ?」と空返事したロディアは、乱暴されると思って押さえていた胸元を叩くフリをして、顔を赤らめたまま、なんなんですかと不機嫌に反抗した。
「
「ど、どこと言われても……」
「なら片っ端から試すしかないな。そこの奥に洞窟の入口が見えるだろ。中で可能な限りモンスターをテイムしてこい。期間は二日間、極力強い奴を頼むぞ」
「……はい?」
それいけとロディアの背中を押したイチルは、崖状になっている洞窟の入口へとロディアを投げ落とした。嘘でしょと、この世の終わりのような叫び声を上げるロディアの様子を上から見届け、イチルはすぐさまその足でランドへと戻った。
まだまだやることは山積みだと首を鳴らし、イチルはロディアを心配し小屋の前でウロウロしていたウィルを掴まえ、また一飛びでゼピアの街へと引っ張った。
「貴様、よくもロディアを
「お前は妹の心配より自分の心配しろ。言っとくがウチで一番使えないのは
「なんだとッ?!」と暴れるウィルを街の真ん中へ投げ捨て、揉め事かと二人を見つめる住民の視線を集めてから、イチルはウィルの耳元へ顔を寄せ呟いた。
「そこらにお前を見てるカップルや夫婦がいるな。これから二日間、時間の限りそいつらを別れさせろ。どんな手を使ってもいい、可能な限り全てを
「はぁ?! アンタ、街のみんなになんの恨みがあってそんな」
「断っておくが、
待てというウィルの手を振り切り、イチルは急ぎ足でランドへと舞い戻った。
小屋前では即席の軍議ならぬ作戦会議が始まっており、フレアとペトラがコマに見立てた小さな石を施設図の中に並べ、相手のコマの置きどころや、それに伴う自分たちの戦力配置を話し合っていた。ただ一人残されたミアは、二人の高度すぎるやり取りについていけず、あわあわと慌てふためくばかりだった。
「おチビさんたち。ちぃと、このメイドを借りていくが構わないか?」
同時に振り向いた二人は、躊躇なく、深く頷いた。ショックを受けたミアはがっくり肩を落としながら、渋々イチルに両手を差し出した。どうやらお縄にかかる覚悟が固まったらしい。
お姫様抱っこのようにミアを抱え、なぜか嬉しそうキャーキャー騒ぐミアを連れたイチルは、ランド敷地内の端まで移動した。そこは砕石用の大きな岩が大量に植わっていて、ミアをポイと捨てたイチルは、目ぼしい岩を選別し適当に丸を付けていった。
「痛いじゃありませんか。女の子をそんなふうに扱うなんて酷いです!」
フグのように膨れたミアの頬を一突きし、イチルは目の前にそびえ立つ中でも一番大きな岩をパンパン叩きながら、新たな指令を出した。
「それじゃあ仕事の説明をする。これからミアには、俺が印をつけた岩の拡大・強化をしてもらう。自分が持つスキルや魔法を用いて、誰にも壊せない巨大で頑丈な岩を作ってくれ。期間はこれから二日間、フレアやペトラを死なせたくなければ死物狂いでやれ」
「死って、……それ、どういうことですか?」
「そのままの意味だ。お前が手を抜けば、フレアたちもこの施設も、この世界から消えてなくなる」
「そ、そんなぁ! ……でも、私なんかじゃ無理……です」
「なら何もせず諦めるといい。どちらにしても、お前の働き
「ちょっと待ってください!」と呼び止めるミアを無視し、イチルはすぐに小屋へと戻った。
イチルの想定が正しければ、三人が生み出すパーツさえ揃えば、《それなり》の勝負になるのは見えていた。しかし《それなり》より高みを目指すならば、フレアとペトラの頑張り次第であることは言うまでもない。
遠目に議論の中身に聞き耳を立てたイチルは、どうやら自分の取り越し苦労だったなと笑みを噛み殺した。よもや十歳同士とは思えぬほど高等すぎる議論の内容は凄まじく、イチルすら思いもつかないギミックをも語り合う二人には、言葉を挟むことすら無駄だった。
「それじゃあ頑張れよ、未熟な冒険者ども。寝てるだけでも遊んで暮らせる金をジャンジャン生み出してくれたまえ君たち!」
イチルの言葉に苛ついたフレアが「うるさい!」と叫んだ。
カッカッと笑ったイチルは、枝にかかっていた誰かの帽子で顔を隠し、眠りについた。
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