第22話

そして数日後、レイバンとベテラン冒険者たちがインディーズに帰ってくる。




彼らは大勢の捕虜を連れていた。




「お帰りなさい。戦士レイバン!」




「勇者の親友!我らが英雄!」




街の人間に出迎えられ、レイバンは堂々と凱旋していた。奴に付き従う冒険者たちも、誇らしそうな顔をしている。




「街の皆よ!俺たちは従軍し、人間に従おうとしないエルフの国を打倒してきた。やがて俺たち人間はすべての民族を征服し、世界の支配者になるだろう」




檻に入れられた捕虜たちを晒しながら、レイバンは誇らしげに宣言する。




「そうだ!世界は俺たち人間のものだ!」




「魔王亡き今こそ、世界の征服を!」




街の人間が熱狂する中、エルフたちは憎しみのこもった視線でじっと冒険者たちをにらみつけていた。








俺はレイバン。勇者パーティの一員として魔王と戦った戦士だ。




つい先日まで王国の傭兵としてエルフ国に遠征していたのだが、そこで大勢のエルフたちをゲットして帰ってきたところだ。




「ほう。これは大漁ですな」




馴染みの奴隷商人が、エルフの捕虜たちが入っている檻を見て顔をほころばせる。




「だろう。奴隷として高く買い取ってくれ」




「わかりました。買い手を探しておきましょう」




俺は奴隷商人と販売委託契約を交わして、冒険者ギルドに赴く。




「ああ、レイバン。お帰りなさい。大丈夫だった?」




俺の幼馴染である受付嬢ミナが迎えてくれる。




「ふっ。エルフたちなんて、魔王との戦いに比べたら雑魚だぜ。これはお土産だ。エルフ城の宝物庫から持って来たんだぜ」




見事なエメラルドが飾られたペンダントを渡すと、ミナは喜んでくれた。




「わあ。綺麗ね」




「これは『風の守り』というマジックアイテムだ。風の結界で装備者を危険から守ってくれるんだぜ。俺の魔力をこめておいたからな」




そういってミナの細い首にペンダントをつけてやる。彼女は嬉しそうに頬をそめた。




そろそろ、ミナに結婚を申し込むか。俺も彼女を守れる男になれただろうしな。




「あ、あのさ。ミナ」




「なに?」




無邪気に聞き返してくる笑顔に気おされて、何も言えなくなる。




「いや、なんでもない。それより、冒険者ギルドの様子はどうだ?」




ごまかすように近況を聞くと、ミナは困った顔になった。




「実は、あなたのお父さんであるギルドマスターが行方不明になったの。冒険者たちも大勢が帰ってこなくて、私たちどうすればいいか」




ミナによると、親父はなじみの冒険者たちをひきつれて新しくできたダンジョンを攻略したが、そこでトラップに引っかかって戻ってこれなくなったという。




それを聞いて、俺は鼻で笑った。




「おやじの奴、いい年こいたロートㇽのくせに危険なダンジョンに手をだすからそうなるんだよ。自業自得だな」




おとなしくギルドマスターをして座っていれば、安楽な老後をすごせたのに、馬鹿な奴だ。そもそもダンジョン探索なんて、古いんだよ。




「私たちはこれからどうなっちゃうの……?」




不安そうなミナの頭をなでで、安心させる。




「安心しろ。俺が新たなギルドマスターになって、冒険者たちを導いてやるから」




こうして、俺は新たにギルドマスターの地位についたのだが、これが実に退屈な仕事だった。




モンスターがいなくなったせいで討伐依頼などが一切なくなり、来る仕事は雑用みたいなものばかり。




「また今日も街の清掃とか薬草採取ばかりかよ……これは逃げた猫の捜索?バカにしてんのか?」




「文句いわないの。仕事がないんだから、贅沢言わずにコツコツ依頼をこなして信用を得ないと」




事務を一手に引き受けているミナからたしなめられてしまい、俺はふてくされてしまう。




帰ってきた冒険者たちからも、冒険者ギルドに不満をもたれていた。




「なんでベテランの俺たちが今更薬草採取や鉱石探しなんてしないといけねえんだ。そんなの新人の仕事じゃねえか」




「俺たちの仕事は腕っぷしを売ることだ。雑用じゃねえ」




彼らの不満はわかる。冒険者なんて戦ってナンボの商売だ。今更街の便利屋なんてやったって金は稼げねえし、夢もねえしな。




なるほど。なんでおやじ達が新しくできたダンジョンに深入りしたかわかる。




危険のない雑用より、リスクを抱えても一攫千金を狙うのが冒険者だもんな。




「またそんなことばかり言って……。いい?レイバン。時代は変わったの。今は平和になったんだから、危ない事はしなくていいのよ」




そう姉ぶって説教してくるミナが少々うっとうしい。




そんな中、俺をさらに不機嫌にさせる知らせが入った。




「エルフたちが売れない……だって?」




「はい。まあ、ある程度は街の人間に奴隷として売れたんですけどね。コルタールの穀倉地帯の壊滅と、オサカの街の経済破綻によって、大口の買い手が見つからないのです」




奴隷商人は、あてが外れたという顔をして告げた。




「残念ですが、売れ残った捕虜たちは冒険者ギルドにお返しします。あ、これは今までかかった食費です」




そういって請求書を回してくる。俺は拒否しようとしたが、ミナが先に受け取ってしまった。




「わかりました。お支払いします」




「おい。何勝手なことしているんだよ」




「何言っているのよ。彼らを連れてきたのはあなたでしょ。ギルドマスターなら、最後まで責任を持ちなさい。あなたが不義理をしたら、ギルドの信用にかかわってくるのよ」




ピシャリと言われて、俺は何も言い返せなくなる。しぶしぶ大金を支払った。




「それでは、明日捕虜たちをお返しします」




そういって奴隷商人は帰っていった。




「おい。どうするんだよ。役立たずの無駄飯ぐらいを抱えむことになるぞ」




「知らないわよ。自分で考えなさい。ギルドマスターの仕事は、抱えている者にどう仕事を与えるかなのよ」




ミナに冷たく言われてしまい、俺は頭を抱えてしまう。




ちくしょう、こんなことならギルドマスターになるんじゃなかった。ただの冒険者なら、こんなことに悩まされることはなかったのに。




困った俺は、盟友で勇者パーティの一員であった魔術師コーリンに手紙で相談する。




帰ってきた手紙には、役立たずの捕虜と冒険者の失業問題を一気に解決できる名案が書かれていた。




「なになに?捕虜のエルフのうち、顔がいい奴は使用人として魔法学園が受け入れてくれるって?」




なるほど。エルフたちは割と美形ぞろいだ。魔法学園に通っている貴族の子弟たちにとっては、使用人として喉から手がでるほど欲しいだろう。




「そして残ったやつの使い道は……闘技場で見世物にするのか」




コーリンの提案を受け入れた俺は、さっそくギルドマスター権限で闘技場を開くことを決めるのだった。


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