商業都市オサカ編
第11話
オサカに潜入した俺は、光魔法「幻覚(イリュージョン)」を使って、真っ黒い服を着た神官に変装した。
そして大通りに立って演説を始める。
「皆の者、聞くがいい。今ここに真実をつげる。今勇者を名乗っている光司は、仲間を裏切った卑怯者である」
俺は大声で、自分にかぶせられた冤罪を主張した。
いきなり今までとは違った話を聞かせられたので、俺の周囲には何人もの通行人が集まってくる。
「これまで述べたように、勇者光司は裏切り者である。また、彼に協力して真の勇者を迫害した、ヨドヤ商人とその娘デンガーナにも、きっと天罰が加えられるだろう」
それを聞いた通行人たちは、一斉に笑い出した。
「ははは。ヨドヤ様は国からこの都市を任されているほどの大商人だぞ。そんなこと、するわけがねえ」
「デンガーナ様の「鑑定」の力には、この都市の誰もがお世話になっている。あんまりつまらんことを言っていると、逮捕されるぞ」
通行人たちは俺を指さして笑い、中には石を投げてくるものたちもいる。
しかし、俺は気にせずに真実を説き続けていった。
「彼らを擁護するものたちにも、いずれ真の勇者が現れて懲罰を加えるだろう。愚かな民たちよ。その時になって後悔しても遅いぞ」
俺の脅しは、通行人たちには全く効かなかった。
「ははは。面白い。天から星でも降ってくるのか?それとも大地震でも起きるのか?残念だけど、俺たち商人に予言なんて通用しないぞ」
「勇者光司さまならともかく、あのハゲなんて怖くもねえよ。せいぜい、明かりを灯すぐらいしかできねえだろうが。はっはっは」
こんな感じで、誰も聞く耳をもたなかつた。
「よろしい。愚かなる民たちよ。いずれ天罰が下る時まで、思いあがっているがいい」
その言葉を最後に、俺は『電化(サンダーフィギュア)』で自分の体を光の粒子に変換する。
「うわっ!まぶしい」
突然現れた光の輝きに、通行人たちはいっせいに顔をふせる。彼らが顔を上げた時には、俺の姿はその場から消えていた。
厳重な警備がされた金庫室で、一人の少女が真剣な目で国から発行された金貨をみつめていた。
「うーん。これは新金貨やな。デザインは前のと同じだけど、金の含有量が減らされて改鋳されとるがな。銀貨や銅貨との交換レートさげといて」
「またですか?もうこれで何回目でしょうか」
少女の言葉を聞いて、従業員たちが呆れる。
「しょうがないわ。国がどんどん金貨の質をさげとるんやもん。損をせんように、キッチリわけとかんとな」
従業員たちは、少女の言葉にしたがって、新しく発行された金貨をよりわける。
ここは、王国の経済を支配しているといっても過言ではない「ヨドヤ両替銀行」の本店である。
ヨドヤ両替銀行は、宝物を担保にした貸金業のみならず、国や各都市が発行した貨幣の両替を一手に握っているメガバンクである。
冒険の旅が終了した後、勇者パーティの鑑定士デンガーナは、父親が経営する銀行の鑑定士を勤めていた。彼女の「鑑定」により貨幣の信用が保たれているといってもよい。
ひとしきり業務を終えた後、彼女は大きくため息をついた。
「あーあ。退屈や。勇者はんと一緒にダンジョンに潜って、宝探しする旅は楽しかったのに。いつまでこんなつまらない仕事せなあかんねん。まあ、金は稼げるけど」
少女ーデンガーナは、ぶつぶつと不満を漏らした。
「まあ、いい年したおっさんの外交官や、金持ち商人がうちにペコペコ頭さげてくるのは楽しいけどな。やつら、うちの機嫌をそこねると大変なことになるって、がっぽがっぽ賄賂もってきよるし」
ぐふふと欲深そうに笑う。
「うちが「この金貨は劣悪品や」といっただけで、それを発行している国や都市の信用が一気に無くなって貧乏になったり、「このアイテムは偽物や」といっただけで家宝がゴミになったりするんやもん。面白うてしゃーないわ」
彼女は自分の能力「鑑定」を悪用し、好き放題ふるまっていた。
「そやけど、最近は王国が発行する金貨の質がおちてんなぁ。そのうち、銀貨に金メッキしたものが発行されるかもしれん。まあ、そうなったらうちに「本物である」というお墨付きをもらうために、王様でもうちに頭さげざるをえなくなるけどな」
ひとしきり笑った後、デンガーナは愚痴を漏らす。
「でも、おっさんばかり相手するの飽きたわ。たまには、光司はんみたいな金持ちのイケメンと……」
そこまでつぶやいたとき、メイドがお茶とお菓子を持ってきた。
「お嬢様。一息いれませんか?」
「おおきに。いただくわ」
お茶をがぶ飲みして、煎餅にかぶりつく。その時、デンガーナはメイドがちょっとくらい顔をしているのに気付いた。
「どしたん?何かあったん?」
「実は、オサカの町で変な噂が広まっています」
メイドは話題になっている黒いローブを着た神父の話をする。彼はしきりに勇者光司を裏切りもの、勇者パーティは詐欺師だとののしり、偽勇者とされたライトが真の勇者だと触れ回っていると聞く。
「もちろん。そんな話を信じる者はいませんが、治安担当者が逮捕しようとしても、光の魔法を使って逃げ出してしまうのです。このままでは、勇者パーティの一員であるお嬢様にも悪評が広がるかと……」
メイドの懸念を、デンガーナは鼻で笑った。
「くだらん。ほっとき」
煎餅をパリッと嚙み砕いていう。
「でも……」
「所詮、貧乏人の嫉妬や。根も葉もない事を言いふらして、ヨドヤ商会を貶めようとしてんのやろ。金持ち喧嘩せずや。ほっとき」
そういって余裕を見せるデンガーナ。その時部屋がノックされて、執事がやってきた。
「お嬢様。その、わが銀行と取引したいという異国のお客様が来られたのですが……」
「なんや。またかいな。適当にあしらっておき」
興味なさそうに手をふるが、執事はので何かいいたそうな様子だった。
「どしてん?」
「いや……その。まずお近づきの印として、金貨10万枚を預金したいとおっしゃられて」
「10万枚?」
デンガーナの目が点になる。それはヨドヤ両替銀行にとっても、有数の大口顧客の預金額だった。
「うちが会うわ。応接室に案内して」
こうして、デンガーナは謎の大金持ちと会うことになるのだった。
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