08
ルキウスはアリアをベッドに寝かせると、その縁に腰掛けた。
再び眠りについたアリアの顔をしばらく見つめる。
「金色の…瞳……」
呟くと、長い金色の髪を一筋手に取った。
「アリア……君は…」
手に取った髪を見つめると、ルキウスはそっと口づけを落とした。
身動ぐとアリアは目を開いた。
「起きた?」
声のする方へ頭を巡らせると窓際にルキウスが腰掛けていた。
「雨が上がったよ」
立ち上がりアリアの側まで来るとルキウスは手を差し出した。
「起き上がれる?虹が出ているんだ」
ルキウスに手を引かれ、窓際まで来るとアリアは開け放たれた窓から空を見上げた。
「わあ…」
夕陽に染まった空に大きな虹が弧を描いていた。
「良かった…ウンディーネと仲直りしたんですね…」
「気分は?」
「大丈夫です」
「もう声は聞こえない?」
「はい」
「そうか、私も耳鳴りが治まった」
「耳鳴り?」
「雨が降っている間ずっと耳鳴りがしていたんだが———あれはウンディーネの泣き声だったんだな」
アリアは虹からルキウスへ視線を移した。
「…ルキウス様にも聞こえたのですか?」
「聞こえたし、今も精霊がいくつか飛んでいるのが見える」
ルキウスはアリアを抱き寄せた。
「君が見たり聞いたりしているものを共有できるのは嬉しいが———あの泣き声は勘弁だな」
「……お別れするのって…あんなに悲しくなるものなんですね」
胸の苦しさを思い出して、アリアはルキウスの上衣の裾をぎゅっと握りしめた。
愛とはなんて苦しくて、悲しくて…そして熱いものなのだろう。
ウンディーネの悲しみは消えたはずなのに、アリアの心の中の残滓がまだかすかな痛みを与えているのを感じた。
「アリアにはそんな悲しい思いはさせない」
髪に口づけると、ルキウスはアリアの正面に立ち、両手を取った。
「王宮に戻ったら、ガーランド伯爵に君との結婚を許してもらえるよう書状を送る」
強い光を帯びた翡翠色の瞳がアリアを見つめた。
「何があろうとも、私はアリアを愛する事を誓うよ。だから…この先ずっと、私の側にいてくれる?」
「……はい」
笑みを浮かべ頷いたアリアをルキウスは抱きしめた。
「ああもう———今すぐ結婚したい」
「…ルキウス様はいつも…」
「〝様〟はいらない」
ルキウスはアリアの頬を手で包み込んだ。
「言葉遣いも、もっと普通にして欲しい」
「でも…」
「二人きりの時だけでいいから。そのままのアリアを見せて欲しい」
「…分かったわ、ルキウス」
「うん」
嬉しそうに頬を緩めると、ルキウスはもう一度アリアを抱きしめた。
「———ルキウス」
「ん?」
「…好きよ」
呟くような声に腕を緩めると、濡れたように光る藍色の瞳がルキウスを見上げた。
「アリア…」
「大好き」
「———私もだよ」
頬に手を添えると微笑んで目を閉じたアリアに唇を重ねる。
二人は長い口づけを交わした。
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