08

「…ここは……」

眼を開くと、見慣れない部屋だった。


『アリア起きた?』

『アリア大丈夫?』

『大丈夫?』

たくさんの光の玉がベッドの周りを飛び回っていた。


「ここはどこ…?」

『王宮だよ』

『アリア熱があるの』

『病気だからお休みするの』


「あ…」

精霊の言葉に、王宮へ行く途中だった事を思い出した。

「大変…」

『アリアお休みするの』

『起きちゃだめ』

『寝ないとだめ』

『病気なの』

「もう大丈夫だから…」

ベッドから出ようとするアリアの周りを光の玉が激しく飛び交う。


『だめ』

『だめなの』

「…分かったわよ」

精霊たちの剣幕に負けたアリアが再びベッドに戻ると、遠慮がちなノックの音が響き、扉がそっと開いた。



「———何だこの光…?」

部屋を覗き込んだルキウスが見たのは、数えきれないほどの光の玉がアリアのベッドの周囲を飛び交う光景だった。


『さすがにこれだけ集まると加護付きのお前には見えるか』

「サラマンダー…これは一体…」

ルキウスは後ろに立っていたサラマンダーを振り返った。


『王宮中の精霊がアリアを心配して集まっているんだ』

「精霊?この光の玉が?」

『これが普通の精霊の姿だ』

光の玉のいくつかがルキウスやサラマンダーの周りまで飛んできた。

何かを訴えるように顔の周りを飛び回る。


「…何か言っているのか?」

『アリアがベッドから起きようとしたと怒っている』


「———アリア」

ルキウスは上体を起こしたアリアの傍に来るとその額に手を当てた。

「熱は下がったみたいだね」

「ルキウス様…」

「でもまだ休んでいて」

「…ご迷惑をおかけして…」

「アリアは何も悪くないよ。君に負担をかけていることに気づけなかった私たちのせいだ」

「いいえ…そんな事は…」


「ごめんねアリア」

ルキウスは優しくアリアを抱きしめた。

「気をつけるから。だから帰らないで」

「え…?」


『病気になったらアリア帰るの』

『シルフの所帰るの』

『アリア帰らないで』

精霊達の言葉にサラマンダーを見上げる。

『アリアに何かあったらシルフが激怒するからな。あれが本気になると何をしでかすか分からない』


「……ルキウス様」

アリアはそっと自分を抱きしめるルキウスの腕に手を添えた。

アリアの顔を見たルキウスと視線を合わせる。

「私は大丈夫ですから。…森へは帰りません」

「アリア…」

微笑んだアリアを、今度は強く抱きしめた。





アリアは目を覚ました。


まだ夜中のようだった。

月明かりが差し込む室内に、いくつかの精霊の気配を感じる。


大した事ではないと主張したが、馬車は身体に負担がかかるからとそのまま王宮に泊まる事になってしまったのだ。


『アリア起きたの』

『大丈夫?』

「もう大丈夫よ」

ベッドから起き上がったアリアへと光の玉が寄ってくる。

アリアはテラスへと出る扉に手をかけた。


大きな丸い月が王宮を明るく照らし出していた。


「サラマンダー」

『どうした』

アリアの声に赤い光の玉が現れた。


「この王宮で一番大きな木の所へ行きたいの」

『どうするんだ』

「シルフに…私は大丈夫だって伝えたいの」

『そうか』

赤い光がアリアを包み込むとふわりと身体が浮き上がった。

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