9. ヒーラー始めた理由は徹底的に姫プレイ堪能したいだけですわッ!
「どういうことだ……?」
唖然とした俺たちの前。
バ美・
俺は、突然の内容に頭が混乱していた。
なんでこいつは……。
装備がリセットされるローグダンジョンの中なのに縦ロールアバターついているんだ……? まさか課金アバターなのか……?
「それは、どっちのほうに対しての質問なんですの?」
「どっち?」
どっちって何が? 縦ロールに隠された秘密?
「クソハルさんが呪われたままについて? それとも、クソハルさんはクリアできないっていうことについてですの?(笑)」
それは——。
後を見るとハルが。
張り付いた笑顔のまま、ぶち殺すぞと言わんばかりの視線をバ美・肉美に送り返していた。
「なんで——☆」
ハルが絞り出すような声を出した。
「なんでそんなの断言できんの!?☆」
無言のまま、バ美・肉美が含むような笑いだけでハルを見返していた。
かと思うと。「高慢ちき」という文字を顔面に張り付けたようなバ美・肉美の表情が、いつの間にか勝手に。
何もしてないのに反吐でもはくようなそれにゆっくりと変わっていった。
つぶやくようにバ美・肉美が語り始めた。
「……今回のダンジョンは、マジモンのクソですわ」
苦々しそうにくちびるを噛んでいる。
なぜいつもこいつは勝手に自己開示を始めるのですか? 寂しいのかな?
「私、10階までいってきましたの」
「10階?」
オウム返しのような俺の言葉に、バ美・肉美がキッ! とした視線で返してきた。
「運営は、このローグダンジョンまともに年内クリアさせる気がさらっさらありませんわ」
「それは(小声)」
どうでもいいような表情をしたモブ子が、しれっと口を開いた。
「単にお前がクリアできなかったからそう思ってるだけなのでは?(小声)」
「そんな程度だったらおめぇらチ〇カス相手にこんなクソみたいな愚痴こぼしたりしてませんわ……!」
バ美・肉美がイライラしたかのように巻き毛をいじり始めた。
「クソハルさん……。断言しますわ。あなたは、絶対にこのローグダンジョンはクリアできませんの」
「10階に……何があるんですか……?」
しょーたろーが、長身のモブ子の陰に隠れながら顔だけをのぞくように出して聞いた。
バ美・肉美がクソでも食わされたような顔面をしたまま、しばらく考えたかのように沈黙している。
全員の視線が集まった中、ぽつりと口を開いた。
「あなた方……。ローグダンジョンに入る前、
「LV?」
質問を、突然の脈絡のない質問で返された。
「俺は、70だったょ……」
鬼のような形相でバ美・肉美がにらんできた。
「絶対もっと低いでしょう?」
「……56」
バ美・肉美どころか全員が俺を冷めた目で見てきた。
いいぢゃん……。ちょっとサバ読んだだけぢゃん……。誰にだって大きく見せたくなるときってあるぢゃん……。
「ほかの方は?」
「51です」
「拙者は23(小声)」
にじゅうさん!?
正気か? という表情で俺としょーたろーがモブ子を見た後、ああ、と納得したように無表情になった。そうかこいつ一回運営からキャラデリされてるんだった。
「あなたは?」
沈黙の中、バ美・肉美の貫くような視線が、ハルを素通りして抜けた。
威嚇するようににらみつけるハルのとなり。
ハルの雰囲気を感じ取ったのか、同様に。巻き毛ヒーラーへ敵意をむき出しにする
「レベル1」
「1……?」
—— 断言しますわ。あなたは、絶対にこのローグダンジョンはクリアできませんの ――
犬のクソでも踏んだような表情でバ美・
それが、俺たちの心に業務用つけもの石を載せたタンクローリーくらいの重さで鈍くのしかかっていた。
あの後。
俺たちはあの、実力だけは裏打ちされた
理由は単純だ。
既存のPTメンバーがバ美・肉美を受けつけない。
主にハルがだった。
どういった理由があるのか俺は知らない。
だが、以前ウォーターガーデンであいつと会ったときからすでに。俺はハルがバ美・肉美に何かしら怨恨があるのはうすうす感じていた。
—— これは私の戦いだから! ――
あのときあいつが言った言葉。
一体……。
ずぞぞぞぞぞぞぞぞ。
となりでハルが、莉桜と一緒に年越しそばっぽい何かを食っています。
ハルとバ美・肉美のあいだに……。
ずぞぞぞぞぞぞぞ☆ ずちゅっ☆
何があったんだ……!?
じゅるじゅるるるるるるるぶはぁ☆
「どっちみち、ヒーラーを探す必要性はある(小声)」
テーブルに座ったモブ子が、神妙な顔つきで口を開いた。
「本気でローグダンジョンのクリアをしたいのなら、な(小声)」
なら、な。
なんだこいつ~。無駄にかっこよく言いやがったイラつく~☆
いつもの酒場に戻って会議を開いていた。
テーブルを囲んで俺。モブ子。ハルと莉桜。
しょーたろーはちょっと未鑑定アイテムをNPCに鑑定してもらいにいっている。ついでに良さそうなのがあれば物々交換もしてくるといっていた。こういうのは攻略大好きしょーたろーに任せておいたほうが多分いい結果になるだろう。本人も好きそうだし。
「なんでヒーラーが必要なの?」
ハルの隣に座る莉桜が、素直に知らないよというような表情で口を開いた。
「ヒーラーがいると、戦略の幅が全然違うのだ(小声)」
初心者によるどストレートな質問に、モブ子が身振り手振り説明しはじめた。
「ダメージを受ける前提の動きもできるし、毒などの状態異常にも対応できる。レベルとスキルにもよるが、
「じゃあ、私ヒーラーやればよかったんじゃない?」
そばを食い終わったハルに、何気なく莉桜が聞いた。
「戦士とかじゃなくて」
「莉桜はヒーラー向きじゃないよ~☆」
「ヒーラー向き?」
「ヒーラーはね……☆」
ハルが青筋を立てながらふふんと鼻で笑った。
「『このPTは私のおかげでなりたってる~』とか『献身的に回復してる私マジけなげ~』っていう、クソメンヘラじゃないとつとまらない職なんだぜ~☆」
どんな偏見だよ。世界中のヒーラー敵に回すわ。
「で、ハル殿……(小声)」
テーブルの対面に座ったモブ子が、いつになく真面目な調子で口を開いた。
「どうして呪われてるのを言わなかったのだ(小声)」
「あ……」
そういや、すっかり忘れていた。
そうだった。こいつは呪われているのだ。
そもそも呪いって何なんだ?
俺たちの視線をうけたままのハルが、いつものアホ以外の何物でもない笑い顔をキープしつつもなお。
眉間に強烈なしわを作ったまま沈黙していた。
騒がしい酒場。
周りの騒音が聞こえる中、ただひたすらにハルが沈黙している。
莉桜の心配したような表情の中、ほおづえをついたモブ子がため息まじりに口を開いた。
「どうせ、初心者にくわえて魔法使いが呪われていたなんて知られたらPTからはじかれるとでも思ったのだろう(小声)」
ちょっとモブ子さん~。半分くらいはやさしさでできている錠剤みたいにオブラートに包んで~。
だが。
沈黙したハルの前、モブ子がさらに続けた。
「ハル殿は、拙者たちを見くびりすぎではないか?(小声)」
「ちょっとモブ子——」
俺はとっさに口をはさんだ。
だが、そんな俺を無視して。
そんなもの知ったことではないとでも言わんばかりに、大きくため息をついたモブ子が強く言葉をつづけた。
「拙者たちはアサシンなのだ。ハル殿も知っての通り、好き勝手に遊んで好き勝手に死ぬ。拙者たちはそういうクソみたいな連中なのだ。効率だけを重視してるような人間ならとっくにキャラデリしている。もう少し信じてもらってもよいと思うぞ(小声)」
トゥンク……☆
俺は自然と両手を胸に当てていた。
やだ……。なにこの忍者……。
でも前回俺をキャラデリ回避のためにいけにえにしたのは絶対に許さんからな。
「正直……☆」
ハルがぼそっと口を開いた。
「どっから話せばいいのかぜんっぜんわかんないよ~☆」
「というかなんでローグダンジョンなのにリセットされてないんだ?」
「こっちが聞きてぇんだよてめぇ~☆」
そりゃそうでしょうね。
「というかそもそも呪いって何なんだ?」
困ったような表情のハルが。それ以上に困ったような沈痛な雰囲気でテーブルを見たまま無言になっている。
この話題を避けたほうがいいのだろうか。
だが避けようがなくないか? そもそも初心者連れてローグダンジョン攻略したいなんて言い出したのはこいつであって。説明責任というものがあってしかるべきではないだろうか。というか究極お前をぶん投げてクリアできるんだったら全部の敵にお前をぶん投げて終わりにしたいんだが。
だがそんな俺の不平不満が全面に出たようなオーラの中、ハルが両腕をテーブルの上にのせてきた。
「最初にね……☆ 私がこのゲームはじめたとき、戦士とヒーラーが声をかけてきたんだ……☆ 何にもわかんなくってさぁ☆ UNKO初めてならうちのPTに入りなよって言われて……☆ それでそいつらのPTに入ったんだ……☆」
☆が多いな。局所的流星群でもふっているのか?
「本当に何にもわかんなかったからさぁ……☆ 後になってわかったんだけど、びっくりするくらいクッソ効率厨でね……☆」
ハルが謎の遠い目をしている。
「で、そのときにつけられたのがこれ☆」
ハルが、右手につけたブレスレットを軽く振ってみせた。
「必要な経験値が増えるかわりに、レベルアップ時のステータスポイントが増えるのだ☆」
「メリットがあるのかないのか微妙なところだな」
「必要経験値が5倍なのにボーナスポイントが2倍にしかならない~☆」
「完全に呪われておる(小声)」
なるほど。
初心者を捕まえてずっと低レベルのままにさせておけばPTボーナス吸い取り放題っていう、まれに発生するクソ廃人に捕まったというわけか。
ん? クソ廃人……?
「で、こっちが——☆」
ハルが左手を突き出すように見せてきた。
薬指にはめられた指輪が、あからさまにヤバい強烈な負のオーラを放っている。
「HPが増えるけど、INTが1になるっていう指輪なのだ☆」
「どこまでも呪われておる(小声)」
「で」
俺は本題に入った。
「今回もお前をぶん投げても大丈夫そうなのか?」
何言ってんだこいつという莉桜の視線を受ける中、ハルが不敵な笑みを浮かべながら俺を見てきた。
「なんとわたくし……☆ 今回まだLV10にしかなっておりません……☆」
隣でモブ子が笑いながら手を叩き始めた。
「ゴブリンすら厳しそう(小声)」
俺はわかりやすく白目をむいてぶっ倒れた。
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