3. ファンタジックなVRには羽虫はいないがアイキャンフライはいる
「ということでウォーターガーデン攻略作戦なわけですが」
しょーたろーが立てたテントの中で、新たな作戦会議が開かれていた。
テントの中にいるのは俺。しょーたろー。そして
なんだかんだと前回一緒にPTした面子のうちの3人だった。
ちなみにさっき草むらで声をかけられたあの極太眉毛は、クエストを達成したからかいつのまにか無言でPTから抜けて消えていた。無言で加入して無言で消えていくまさにアサシンスタイル、闇にとけこんでも一般社会にはとけこめないやべえ匂いがプンプンするところがTHEアサシンって感じです。
「せっかくなんで、エリアボス見物して死にませんか」
「え?」
しょーたろーの予想外の言葉に、思わず俺は質問していた。
「あれエリアボスじゃなかったの?」
「違ったみたいですね」
クエスト情報を広げてみた。
本当だ。ジャイアントキリングは達成になっていたが、ウォーターガーデンのボス撃破クエストは未達成のままになっている。
あれでボスじゃないってのはちょっと嫌な予感がする~。
「実装されてまだ二日しかたたないんで、ウォーターガーデンの攻略情報はあんまり出てないんですよ」
どこから取り出したのか、しょーたろーがインテリくさいメガネをつけて、え? なぜメガネ? 指示棒を叩き始めた。
プロジェクターのように映し出されたエリアマップを開きながら、しょーたろーが説明し始めた。
「僕たちがいるのは多分、ここです」
ビシッ、と指示棒がまぁるい巨大な池をさした。
「イヌユ塩湖」
ウユニ塩湖じゃねえかボリビア大使館からクレームが来ても知らんぞ。
「エリアボスはね~☆」
テントにちょこんと座ったピンク色の悪魔が口を開いた。
「もっと奥の、滝を落ちた先のでっかい滝つぼあたりに沸くっていってたよ~☆」
滝つぼ。リアルでは一生
「何で、そんなこと知ってんだ?」
「さっきのPTでほかの人たちが言ってたんだよ~☆ ドロップ品で
「解呪の杖?」
「ステータスにかかった呪いを解くことができる激レアアイテムですね」
「なるほど」
俺は無言でハルのステータスをのぞき見した。
相変わらず【状態異常: 呪い(3種)】とかいうゲロヤバいワードが残っている。何をしたらこんな呪いとかくらうことになるのだ。道端の犬のクソでも食ったのか。
だが、ふと俺の脳裏にある疑問がわいた。
「ってことは、ハルはエリアボス倒すつもりで来たってのか?」
「そうだよ~☆」
「それならさっきのPTのほうがまだ可能性があった気が――」
俺の何気ない質問に、ただ笑うだけのハルから異様な威圧感が漏れだすように襲ってきた。
「あんな彼岸島みたいな丸太一つどうにもできないPTでエリアボスがどうにかなると思うか~?☆」
「まあ、それはいいとして」
しょーたろーがメガネをクイッとさせながら指示棒でマップをつついた。なんだろうすごくウザい。
「マップ的にいうとこのあたりっぽいですね」
広大なエリアの中、もりもり木が生えまくったエリアの近くに、滝つぼっぽいような何かがマップに表示されている。
確かに滝つぼって感じがする~。
「まあ正直僕らだと見物したら死ぬだけだと思うんですけど」
「でもハルはボスを狩りたいと」
「そうだね~☆」
のんびりした調子のピンク色の悪魔の前で、俺は遠慮がちに懸念材料を声に出した。
「たぶん、ハルをぶん投げないと勝てないぞ?」
「それは――」
俺としょーたろーの視線がピンク色の悪魔で合流した。
眉間にしわを寄せたまま、ハルが謎の笑顔でくちびるをかんでいる。
「人権を……尊重していただけないことまことに遺憾ではありますが……☆」
思ったよりもウォーターガーデンはウォーターなガーデンだった。
いたるところで水と森に満ち溢れていた。VRだからこそ感じられるとっても素敵なマイナスイオン。木々の間から聞こえてくる鳥のさえずり。現実だと絶対に羽虫が飛んでて水辺を通るたびにヒルに食われてたりするんだろう。よかった本当にVRで。
奥地に行くにつれてイモ洗い会場はどんどんと人が消えていった。あとあの丸太抱えた巨人も、奥のほうで二匹見つけただけで隠れながら進めば特に問題はなかった。
多分あれはマップの入り口だったからバカみたいに人が多かったんだろう。そしてあの巨人は多分、逃げ遅れた誰かが奥のほうから引き連れてきてしまってたんだろう。だからマップに入った直後で地獄のアトラクションが繰り広げられてしまってたんだろう。多分。性善説ですが。
だが俺は見てしまった。
とんでもないものを見てしまった。
「死んじゃう~☆」
ダムの放水みたいな大轟音がなりひびく中、アホみたいにひらけた森の先はぽっかりとなくなっていた。
もっとちゃんというならナイアガラみたいな
「この
「VRだから死なない死なない~☆」
ハルが心底楽しそうに絶叫を上げていたが俺は心底ログアウトしたい気持ちで絶叫を上げていた。
俺の中の危険信号が死ぬほどなってるッ! 絶叫系アトラクションは苦手だっていってるじゃないですかやだーッ!
流れていく水流に足をとられないぎりぎりの範囲で回りを見回した。
見わたす限り誰も人がいない。
「なあ、どう考えてもここから行くルートじゃない気がするんだよ」
俺は最後の抵抗をしていた。
「正規ルートは別にある気がすると思わないか?」
「なんか今回のアップデート気合はいりすぎてませんか?」
「え?」
「なんか! 今回の! アップデート! 気合が! 入りすぎてませんか!?」
「わかる~」
全然会話が成り立ってない。
もう正直ほかのメンツが何言ってるのか全く聞き取れないので適当に返す中、俺はまたとんでもないものを視界の中で見つけてしまった。
はるか先まで見渡せる水面の中、いかだが、ゆっくりとこっちにむかって流れてきていた。
いかだ?
「また会ったな」
流れてくるいかだの上、ちょうど人の頭があるならこのへんだよね~っていう場所に、変な極太眉毛をつけた顔面だけがくっきりと浮いていた。
例のスナイパーだった。
相変わらず顔面だけが浮くように今回は体中に空っぽい色で塗りたくってきている。そういうスキルなのか装備なのか知らないが毎回自力でやってるとしたら満ち満ちた狂気の結晶体だと思う。
いかだにのったままの男が口を開いた。
「お前たちもこの滝の下に行くのか?」
「いや行かないです」
「そうか残念だ……。この下にはエリアボスがいるという話を聞いているから俺は突っ込もうと思ってるんだが」
「そのいかだで?」
「もちろんだ」
もちろんなのか。
一瞬躊躇した後、俺は口を開いた。
「そのいかだで突っ込んでいって、エリアボスいなかったらどうするつもりなんですか?」
「は?」
極太眉毛があからさまに不機嫌そうに眉を吊り上げた。
「いるかいないかなんてのはどうでもよくないか? 新しいエリアがあるなら限界まで突っ込んで死ぬ! ボスがいたなら殺す! それ以外はどうでもよかろうよ!」
ええ~? ちょっと全く理解ができない~。
わかってる。こういうリミッターがぶっちぎれてるタイプは基本全スルーしたほうがいい。
「そうですよね……」
もう何も話さないぞと決め込んだ俺の後ろで、流れにのまれないように岩にしがみついていたしょーたろーが静かに感銘を受けたような声を上げていた。
「ちょっと感動しました。ゲームなんですもんね……。冒険しなきゃ……!」
「そうだぞバックパッカー」
違いますアサシンです。
「せっかくのゲームなんだ。楽しまなければもったいないじゃないか! こんな現実では楽しめないような状況これこそ楽しんでえええぇぇぇぇぇぇ――――――」
言葉の途中で男の姿が消えた。
いかだが滝にのまれて落ちていった。
「ゴノレゴさーん!」
しょーたろーが感極まったような叫びをあげた。
え? なんか感動する要素あった?
「あ☆」
ハルから小さく声が上がった。
水面の下、おそらく滝つぼがあるんだろう見えない場所のところで、小さく「DEAD」という文字が表示された。
しばらく誰も話さない中、大轟音なりひびく滝の前で俺は小さく口を開いた。
「このルートはやっぱりないな」
「ないですね」
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