長財布の中みたく

 雪の降りしきる駅のホームで、ベンチに座って時間を潰していた。

 積み重なった藍と灰色の人間たちは、まるで神のお告げを待っているようで、

 その上に降り積もっていく重たい雪は、彼らの信仰心を吸い取って空に還しているのだろう。

 長方形の空から覗く鈍色の雲を刺すビルの群は、彼ら一人一人に信託を授け、

 今日もまた、彼らが地に落す影を曖昧に薄めている。

 ジャケットのポケットにしまっていたスマートホンが震え、

 自分もまた彼らの中に埋もれていく時間であることを伝えてくれた。

 ふと、

 この平らな板も、無彩色の人々も、駅のホームも、長方形の空も、銀色のビルも、何もかもをこの掌の中に押し潰して、

 長財布の中みたくにしまい込んでしまえたら。

 そんな妄想が浮かび、僅かに溢れた笑みも、

 きっと今から、この灰色の景色に溶けて消えて行く。

 いつもの朝のことだった。


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