クレンザーが

 クレンザーがなくなりそうなことに気づいて、サンダルをつっかけて外に出た

 いつの間にか終わっていた春が残したリップクリームだけ塗りながら

 ジーンズのポケットからはみ出したキーホルダーが揺れる音を聞いて、零れた鼻歌はカブトムシ


 霞色の遠景に夏の匂いを探すと

 髪を撫でる藤色の風が微かに甘い水気を運んでくれた

 足跡には萌黄色の音符が跳ねるようで

 飛行機雲の行方に中学生の頃の夢を思い出す

 仕舞った財布の重みだけが邪魔をして、軽くなった心をつなぎとめた


 葉を茂らせる桜並木の木漏れ日が時間の流れを思い出させ

 お風呂場の鏡を磨きたい理由を忘れさせる

 不意に、何もかも真っ白に薄まって消えて行く世界を夢想して

 空を見上げた私の唇が、最後の歌詞を歌い終える


 生涯忘れることはないでしょう

 ねえ

 そんなことって、あると思う?

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