第42話 休憩時間

 ハグして数分経っているんだけど震えも止まっている。

 だけど──どのタイミングで止めたらいいかわからない……。


 静かな静寂を先に切り裂いたのは、雫だった。


「震えているのわかって抱きしめてくれたの?」


「うん……」


 頭をポリポリ掻きながら目を泳がす。

 小さい声で雫がクスッと笑って口に手を当てている。


「本当に優しすぎだよ……。いつも助けられてばっかりだから私って使えない女だなって思う」


「雫だから助けたいって思うのが当たり前だからそんなこと気にしないでよ」


 不服そう顔をして、えーって言いながらほっぺを膨らませて、こちらをじっと見つめられる。


「また可愛い顔しちゃうと男が寄ってくるから、そんな顔したら駄目だよ」


 雫の手を自分の顔に近づけるように持って、手首の赤くなっている場所と手のひらにキスをする。


「消毒しとかないとね」


 真ん丸な目と可愛い顔をして固まっているから軽く口づけもした。


 声にならない声をあげて、カフェのところで行ってしまう。


 あー。可愛すぎて学校の中でキスしちゃった……。

 抑えようとしたんだけどね。無理だったわ。


「ふぅ、とりあえず落ち着こう」


 体温が上がってしまったから、手で顔を仰ぐ。

 うちわが、ないからまともに風もこない。


 数分の間、仰いでいたから体温も少しは下がっただろうし戻ろうかな。


「戻りました」


 戻ったらクラスのみんなが大変だったねと声をかけてくれた。


 それから雫とは、まともに会話できずに休憩時間をもらうことになる。

 横を見ると同じく休憩をもらった雫が座っていて、気まずい空気の中、ご飯を食べた。


 結構早くから昼ご飯を食べたので待っていたら、ご飯も食べ終えたのか雫が休憩室から出ようと歩きだす。


「雫、文化祭一緒に回らない?」


 自分も立って雫のところに歩いて行く。

 立ち止まって、くるりと自分のいる方を見る。

 雫の目には、いかにも警戒をあらわにするような目で見られた。


「うーん、どうしよっかなー」


 ドア付近にいる雫を遮るようにドアに肘を付けて雫が動けないように至近距離で身動き取れないようにする。


「雫と一緒に回りたい」


「怜、近い……」


 困ったような顔をしている雫も可愛い。

 何を思ったのか雫が慌てて口元に指でバッテンを作っている。


「何してるの?」


「キスされないようにしてるの」


 顔を眺めていたら、キスされると勘違いしたのか。


「キスされたら私もいっぱいしたくなっちゃうから……」


 まさかの予想外の言葉に胸に衝撃がくる。

 危ない。理性を保たないと襲いたくなってしまう……。


「雫、どうするの? このままだと回る時間なくなっちゃうよ?」


「えっ! それは、ヤダ! 行く!」


 よし。あの雰囲気は、危険すぎたけど言質も取れたし、雫も他のクラスの出し物とか見たそうな感じがあったから時間ないって言えば一緒に行くと予想してた。


「んじゃ、一緒に行こっか」


「──うん」


 色々見て回ってお化け屋敷やお菓子などを売られているところもあって、スイーツなどを買って二人で食べ合いっこもした。

 お化け屋敷は、雫が興味津々だったけど、いざ入るとクオリティが高くてずっと雫が自分の腕を組んでベッタリと、くっついてて可愛いかった。

 ご褒美タイムをもらえた気分で、もっと続けばいいのに、とか内心思ってしまう。


 体育館では、劇があっておもろしい内容ばっかりで二人で笑っていた。


 休憩時間も終わるからバタバタ戻って文化祭が終わるまでカフェで接客を頑張る。


 みんな、文化祭が終わる頃には、クタクタになっていて商売繁盛だったから客が途絶えることもなかった。雫と一緒に帰宅することもできたし嬉しいこと尽くしで文化祭が無事終えた。


 家に帰ると笑っているのが、わかったのか嬉しそうだねとお父さんに言われる羽目になる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る