第36話 悲しみの毎日
「リオン様、また沈んでるのかい?
リオン様がそんなんじゃ、リュードも心配で仕方がなくなってしまうんじゃないか?」
苦笑して僕の前に小さな可愛らしい花束を差し出すのはヘンリックお兄様。
僕がお兄様に学院を案内してもらった時に出会った、お兄様の仲良し。
急遽決まった第三王子キリウム殿下の隣国へ留学の随行員として、お兄様がお友達のジャック様共々、あっという間に旅立ってからすっかり僕は気鬱な毎日。
そんな僕を心配してヘンリック様はしばしば顔を見せてくれる様になった優しい方だ。
「ヘンリックお兄様…。いつもありがとうございます。
でも会いたくなっても、お兄様に何年もお会いできないと思うと、ぼ、僕は…悲しく…て。」
僕は悲しみが襲ってきて胸が締め付けられて、喉の奥が痛くなった。
ヘンリックお兄様は僕を柔らかく抱きしめると僕の顎に手をかけて、目元を優しく指で拭ってくれた。
泣いてしまった事に気づいた僕は益々悲しみが押し寄せてきて、思わずヘンリック様の胸元にしがみついて泣きじゃくった。
隣に座っていたヘンリック様は少し息を呑み込むと、僕を膝に抱き上げて僕のおでこを肩に寄りかからせた。
お兄様に似た温かく大きな身体に抱きしめられて、背中を優しく撫でられているうちに僕は何だか安心してしまっていつの間にか意識をなくしていった。
気がつくと僕は自分の柔らかなベッドの上だった。
身じろぎするとセブが側に寄ってきて、僕の頭を撫でてくれた。
「最近良く眠れてなかった様ですね。眠ってしまわれたのでヘンリック様がこちらまで運んでくださいましたよ。」
ボンヤリする頭で僕はヘンリックお兄様に抱きすがってしまったのを思い出した。
その上寝てしまったなんて!ああ、僕って赤ん坊じゃないんだからっ。
僕は自分の不甲斐なさにすっかり落ち込んでため息をついた。
「そんなに落ち込まないで下さい、リオン様。ヘンリック様はリオン様に甘えてもらってお喜びでいらっしゃいましたよ。」
セブはクスクスと笑ながら僕を抱き起こして、優しく慰めてくれた。
今度どんな顔をして会えばいいか分からないよと僕はセブに愚痴った。
ヘンリック様の温かな胸と深い森の中のツンとする様なスッキリ感じる良い香りを思い出して口元が緩んだのを感じた。
そしてお部屋に飾ってある小さな花束を見る度に、その事を思い出して恥ずかしい様な嬉しい様な感情が胸に湧き上がるのだった。
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