6/30 やるせない思い

心臓に一番近い血管に、直接、ドナーの骨髄液を点滴注射して移植します。


いただいた骨髄液は、もったいないので、最後の最後の一滴まで、残さず点滴で落としていました。


更に、生理食塩水でパックの中を残らずさらえて、こちらの体内に入れていただきました。


点滴終了の後で、パックの中に残っていた、最後の一滴を撮った写真があります。

まるで、宝石の様だ、と思って、涙を流しながら撮影しました。


涙と言えば、約1リットル弱にも達する、3パックに分けて入れられた息子の骨髄液は、Dr.の手によって、私のいるクリーンルームに届けられた訳ですが、目の前のテーブルの上にそれらが置かれたのを見た時の気持ちと言ったら、一体どう表現したら良いのか、わからなかったです。


「こんなにたくさん、採ったんですか?!」思わず、主治医に対してそんな風に噛み付いたのを覚えています。


小さい時から、怪我をさせない様に、病気をさせない様に、必死で育てて来て、その思いに応える様に大きな怪我も病気もなく元気に育ってくれた息子の身体に針を刺して、ましてやこんなにたくさん、よくも採ってくれたな…!


母親として、辛くて辛くて仕方がなかったです。今までお陰様で健康で、入院の経験もない息子だったのに、全身麻酔で、こんなに骨髄液を採取されて。


何より一番辛かったのは、この私の、自分のせいで、息子の身体に針を刺す様な事になってしまったという事でした。


仮に、息子が骨髄を提供する相手の患者さんが、私以外であったら、涙を流すのは同じでも、その意味が全く違ったものになっていた事でしょう。


息子が、どこかで骨髄を必要としている方のお役に立てる。命の炎を再び灯して差し上げる事が出来る!

そう思うと、私まで嬉しくなって、感激の涙を流していたはずです。


しかし、母である私にとってはまるで悪夢の様に、私のせい、なのでした。


やるせない思いで、Dr.の前で、さめざめと泣きました。


「どうしてですか?親孝行ですよね。」と言って下さるDr.でしたが、「そういう問題じゃないんです〜」と泣き崩れるしかなかったです。


でも同時に、一方では、これは何としてでも、いただいた息子の骨髄で、蘇らねばならない!何としても!と、決意を固めている自分がいました。


朝一番に手術室で骨髄液採取を受け、病室に戻って麻酔が覚めてからも、3時間はベッド上安静を強いられていた息子の写真があります。要安静の3時間が経過してすぐ、点滴台を押しながら、私の病室に来てくれました。


しかし、当然、極度の貧血状態です。すぐさまNs.に、車椅子で強制送還されて行きました。


そんなにまでして、母の事を心配してくれたんだなあ、と、思い出す度、目頭が熱くなります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る