𝐌𝐮𝐬𝐢𝐤 𝐬𝐭𝐮𝐝𝐭

@Leva1945

第一章 トンネル 視点→カイ

目を覚ました。いつもと同じ部屋だと思った。違った。

硬いコンクリートの上に、僕達は寝かされていた。近くには見覚えのある顔たち。

「アオバにライナ……ハルも」

卒業した響奏きょうそう中学校の吹奏楽部で3年間一緒にやってきたメンツだ。

「久しぶりだね。カイ。」

トンネル内に、ライナの声が響く。

「カナデ…ヒビキ…リリカ、リナ達は!?」

ハルが心配そうに声を発した。カナデ達も同じく3年間を共にしてきた仲間の名前だ。

「にしてもこのトンネル、明るいね」

アオバが声を発する。確かに、このトンネルは明るい。何故だろうと僕は疑問に思った。

そして急に飛ばされたものだから、スマホを持っていない。ここがどこで、今が何時なのかも何も分からない。今居ないメンバーとの連絡手段がない。

「誰かスマホ持ってる人いる?」

「あ、私持ってるよ!」

ハルがスマホを見せた。バッテリーは70後半。これなら……と思ったのだが、

「あれ、圏外だ……」

「嘘でしょ?」

アオバがハルのスマホの画面をのぞきこんだ。

「ホントだ……圏外」

「でもさ、トンネルってだいたい圏外なるくない?」

「えー……ならないと思うけどな……」

投げかけられたライナからの質問に答えつつ、ここがどこなのかの推測を始める。

ふと、近くにある看板が目に入った。

「なぁ、あの看板照らしてくれないか?」

黒っぽい看板……土埃が付いていてよく文字が読み取れない。

4人で近づいて、ハルはそれをスマホの懐中電灯機能で照らす。ここだけ圏外じゃないなんて都合のいい回線だな。

土埃を軽く払う。するとそこには英字……なのだろうか。何かが書いてあった。

「𝐌𝐮𝐬𝐢𝐤 𝐬𝐭𝐮𝐝𝐭《音楽の街》……?」

幸い、そのアルファベットの分の上に和訳が載ってくれて助かった。

「最初のって読み方ムジークだよね?確か……」

アニメが好きなアオバが口を開いた。

「だから多分これドイツ語だよ。ちょっとハルちゃんスマホ貸して……ほら。ドイツ語だ。」

スマホにはちゃんとMusikと表示されていた。

「ならstudtは?」

ライナも口を開く。アオバが慣れた手つきでフリック入力していく。

「シュタットだって。読み方」

𝐌𝐮𝐬𝐢𝐤 𝐬𝐭𝐮𝐝𝐭《ムジークシュタット》、か。

ドイツ語……そういえば

「カイ、すごく向こうだけど、人影が見える」

思考中断。ハルが声を掛けてきた。

「え、人?」

「私、目がいいから。ほら、そこに……4人。」

4人……?まさか

「あれ?カイ達じゃない?」

人影ががこちらへと向かってくる。聞き覚えのある声。

「リナ!カナデ達も!」

アオバが人影の方に駆け寄る。

「居ないから探しに来た!」

ヒビキが元気に声を発する。トンネル内だっての。

「久しぶりだねぇ……卒業式以来?」

リナがリリカに問いかける。

「そーだね……みんな変わってないw」

「そっちはなにか収穫あった?」

「シューカク?」

意味わかってねえなヒビキ。

「このトンネルの事とか、例えば……あの看板みたいなのとか。」

「あ、あの看板なら私達もここに来る途中で見たよ」

リリカが声を上げた。

「マジで?ということは……」

「この方向に進めってか。」

アオバがリリカの反応に耳を傾ける。前に進め。

言われたらいくしかないな。

「行ってみよう。こんなとこにいても、何も始まらない。」

「そうだね。行こっか。」

リナが僕の呼び掛けに反応した。みんなが前進する。

20分ほど歩いて光が見えた。トンネルの出口だ。

「やっと着いた……」

ハルはあまり体力がない。疲れても仕方が無いな。

この先には何があるのか、不安と興奮が入り交じったような気持ちで心がいっぱいだ。

「行くぞ……」

光を抜けて、目に飛び込んできたのは

「え、」

「す、すごい……」

沢山の音楽が響き、ネオン系の色に包まれた街並みだった。

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