深淵から覗かれたい!

大粒いくら

1、琴葉

―ねえ、この先ってどうなってるのかな

 知らない、そんなこと。

―端っこはどうなってるんだろうね。  

 真っ暗で何も見えないじゃない。

―だからだよ。逆に気になると思わない?

 そんなの、どうでも良い。眠い。

―もうちょっと、奥まで覗きたくない?

 別に覗きたくない。ほっといてよ。

―ちょっとだけで良いからさ。一緒に行こうよ。

 うるさいな。静かにしててよ。

―ねえ、ねえ!恐いんだったら、僕が手繋いでてあげるよ。

 恐いんじゃないよ。眠いんだって。

―ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ!

 うる

「…さいって言ってるでしょ!!!」


 私、琴葉ことはは目を覚ました。勢いよく起き上がったものだから、血圧の加減で頭の中に星が散って、くらくらと目眩を感じた。傍らには誰かの気配。毎朝の事だから、わざわざ目をやる必要もない。弟の奏多かなただ。もしそちらに視線をやれば、窓から差し込むまだ浅い春の朝日が、キラキラと彼の金髪を透き通らせるのが目に入ったろう。


「姉さん。僕、毎朝思うんだけどさー」

 皆まで言うなというやつ。

「申し訳ありません。ごめんなさい。失礼しました。」

「いや、もう慣れっこだけどね。これもまたどうせ嫌がるんだろうけど、お医…」

「嫌。」

「だよね。朝ご飯食べちゃってよ。片付かないからさ。」


 私は毎朝同じ夢を見る。否、正確には見ているらしい。起きた時に内容は覚えておらず、只、何となくまた同じ夢を見た気がするといったものである。


 奏多によると、私は相当うなされているらしい。揺すり起こそうとしても、うなされ初めてからある程度時間が経過しないと、揺すっても叩いても蹴っても起きないんだそうだ。そして、僅かずつではあるが、月単位年単位で見ると、うなされている時間が延びているらしい。


 それを心配した弟は、毎朝律儀にうなされる姉に起床を促しに来る。そしてうるさいと私が大声を上げてしまうまでが、毎朝の我が家のルーティンだった。

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