第二章 新たな出会い-3

「俺らを連れてやってきただと?」

「悪いね。少し手荒なマネをしてしまったことについては謝るよ」

 ヤムは二人を気絶させて洞窟に連れてきたことを詫びた。

「だけど、ヤムさんはそんなに悪い人じゃないよ。カイン」

 ハザードはヤシの実の中身を飲みながらカインに話す。ハザードの態度にカインは今もなお、調子が戻らない。

「どういうことだ?」

「続きを説明しますね。ヤム様はハザードさんとカインさんにさらに力をつけてもらおうとして、この洞窟内に連れてきたのです」

 リンネの説明にハザードは「そうそう」と頷いた。

「つまり、カイン。君が起きるのをハザードを含め、皆で待っていたんだよ。まだ体は万全じゃなさそうだから、もう少し休息が必要だと思うがな」

 ヤムはカインにリンネの言葉に付け加えると、「とにかく今は魚でも食え」とにこやかに微笑んだ。

「ふん! まだお前のこと信じたわけではないからな!」

 カインはそういい返したが、魚にはかぶりつくのだった。


「だけど、ヤムさん。どうしていきなり俺らの前に現れて、ここに連れてきたの?」

 ハザードはヤムが何故、自分たちを気絶させてこの洞窟内に連れてきたのかを知りたかった。

「それはリンネから説明してもらうよ。リンネ?」

 ヤムはリンネに目をやる。リンネはヤムの横で小さく羽ばたいていた。

「かしこまりー。ヤム様は見ての通り、武器を持たないので、剣術など技は体得していません。ですが、その肉体美から納得できるかと思いますが、チャンシンケンの使い手です。そして……」

 リンネが続きを話そうとすると、カインが話を遮る。

「ちょっと待て。そのチャンシンケンってなんだ?」

「あ、そうか。チャンシンケンすら知らなかったのですね。申し訳なかったです。ヤム様」


 リンネはヤムに言葉を振ると、ヤムは足を肩幅に広げ、腰を落とした。その後、上半身の動きとして両腕を上げて、肘を曲げると、拳を握る。

「はぁー!」

 声を上げて気合いを入れると、握っていた拳を前に突き出し、広げる。

「てぇいやー!」

 今度は全てを放つように前にエネルギーを放出する。同時に洞窟の奥にあった岩が真っ二つに割れて洞窟内が広くなった。

「す、すげー」

 ハザードは目の前で起こったことが信じられずありきたりな言葉しか出なかった。

「これがチャンシンケンだ」

 ヤムは手をパンパンと叩いて再びその場に座り、「続きをどうぞ、リンネ」と促した。

「と、まぁ、このチャンシンケン一つで、この辺り一帯にはびこるジョールを一掃してきました。そんな中で、お見かけしたのがお二方だったのです」

 リンネはここまで話して、ヤムの肩に止まり、少し羽を休めた。


「なるほどな。でも、お前も人が悪いな。見てたのならそのチャンシンケンで俺らを助ければ良かっただろう?」

 カインは、「いちいちしゃくに障るやろうだぜ」と、言葉を付け足す。

「君たちの実力が知りたかったからね。あえて見守ったのだよ。もちろん、危なくなったら手助けするつもりだったよ」

 ヤムは、そう言って「ははは」と笑ってごまかした。

「それで、ヤムさんは僕たちにチャンシンケンを教えてくれるんですよね!」

 ハザードはそこまで話してくれたヤムに「もちろん、そうだろう」という確信を持って尋ねる。

「ハザード、そう簡単には教えられない。チャンシンケンを扱うには俺のように体に筋力が必要だ」

 ヤムは自分のようにたくましい体つきにならないとチャンシンケンを使うことは不可能だと言い放つ。

「ようは体力と肉体改造さえすりゃいいんだろ? やってやるよ。これからの戦いにチャンシンケンは覚えておいて損はなさそうだからな。それにお前は少なからず俺らにその素質があると思って、この洞窟に連れて来たんだろうからな」

 カインは大人に刃向かう子供のように言葉を吐き捨てる。

「ヤム様、カインさんは意外と鋭いですね」

 リンネはヤムのそばを羽ばたいて小声で言付ける。ヤムもその言葉に小さく苦笑した。

「だけど、チャンシンケンを得てお二方は何をされたいのですか? まず何を目的に旅を? ジョールとの戦いを見た限りでは剣術には少し長けているように思えましたが……」

 リンネはあのときのこと回想しながら、二人がなぜ旅をしているのかを確認する必要がある気がした。それはきっとヤムも知りたかったはずだし、チャンシンケンを教える上でも必要になることだとリンネでも分かりそうな簡単なことだったからだ。


「故郷のコルコット村で、俺の父さんであるザーギンの元で剣術を嗜んでたんだ。そしたら、アランってやつが村を襲撃してきて……」

 ハザードは言葉を詰まらせて歯を食いしばった。

「ヤム様。アランって。まさか……。それにザーギンといえば」

 リンネはヤムのそばで呟くと、ヤムも二人には聞こえない声でリンネに返す。

「あぁ。アランもザーギンもレンの使い手。チャンシンケンでは歯が立たぬ。でも、チャンシンケンなしではレンに対抗するなんて、まず無理だ。やはりこの二人にチャンシンケンを伝授するべきみたいだな」

 リンネも横で「はい」と頷いた。


「おい! ヤム! こっちはこれまでの経緯を話したんだ。これから俺らにチャンシンケンを教えてくれるんだろうな?」

 カインはヤムがなかなか返事をしないため答えを急かす。

「よし! わかった。では、まずは二人とも基礎体力の向上から訓練をしていくか! 俺の修行はそんなに楽じゃないぞ! 張り切ってついてこい!」

 ヤムはこれから二人にチャンシンケンを伝授するために修行を始めることを決めるのだった。

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