第一章 旅立ちの時-2
「ザーギンさん、どうして二人にリュージェ様の伝承の剣であるコンコルドソードのこと話したのですか?」
剣道場の騒ぎの後、ザーギンは二人に力を見せつけてから教会へと向かっていた。神父はザーギンに問いかけた。
「リュージェ様の存在が本当だったということを二人に知って欲しかったのです。リュージェ様の伝説と共に」
ザーギンは神父とリュージェ様の伝説について、振り返り始める。
「リュージェ様は荒野を一人で月を目指して旅立った。彼女はルリジオンという宗教を信じて、女神デーア様のご加護のもとコンコルドソードを一つ携えて。そして、リュージェ様はこのコルコット村の地に降り立ったとき、デーア様に出会い、コンコルドソードと引き換えに女神の座を交代したとされているのですよね」
神父はそこまでザーギンに話すと、ザーギンはリュージェ様に祈りを捧げる。
「リュージェ様は女神デーア様と何を話したのでしょうかね? コンコルドソードを授けて女神を交代するとは」
ザーギンは神父に疑問を投げかけるが、神父は「そうですね。なぜですかね?」と首をかしげた。
「まぁ、現代ではデーア様ではなく、リュージェ様がこのコルコット村の女神様です。信仰宗教は昔と変わらずルリジオンですしね」
神父はそう言って、ステンドグラスの上で大きく佇んでいるリュージェの女神像に目を向ける。
「ルリジオンの発祥について聞いても良いですか?」
ザーギンは神父にここぞとばかりに質問していく。
「ルリジオンの発祥は、デーア様が恋人カエサル様と共に訪れたこのコルコット村の泉にあると言われています」
「泉? あの小さな泉ですか?」
確かにこのコルコット村には小さな泉が村の中心に位置している。子供たちが遊び場にすることが多いため、ルリジオン発祥の地とはなかなか考えがたい。
「そうです。あの泉は元々ルリジオンという名称でした。今でもその名残を受けてジオニクスと呼ばれているのはザーギンさんも知っておられるでしょう?」
「確かに。しかし、ルリジオンの名残とは初耳です」
ザーギンはあの小さな泉、ジオニクスが宗教ルリジオン発祥の地だとは考えもつかないと思えて仕方なかった。
「あのジオニクス、いや、ルリジオンの泉からデーア様とカエサル様の愛が生まれたと言われているのです。そうして、その愛の伝説からルリジオンがこのコルコット村の信仰する宗教となったのです」
神父はステンドグラスの光が入る位置から燭台に火を灯し、女神リュージェの後ろ姿に灯りを付けた。
「ありがとうございます。神父様。色々なお話タメになりました」
ザーギンは神父にお礼を言うと、剣道場へ戻ることにする。コンコルドソードはまだザーギンでも扱うのは困難であると思っているのだ。さすがはリュージェ。あの荒野を一人、コンコルドソードを携え、突き進んだのから。
「おい。カイン! これが見えるか!」
「ハザード! よせ! お前の剣では俺には敵わないさ!」
剣道場では二人の大きな声が響いていた。ザーギンはやれやれと剣道場の扉を開ける。
「二人とも! まだ着替え終えて帰っていなかったのか! さっさと帰らないか!」
「うわっ! 父さん!」
「ザーギンさん!」
ハザードは急に現れた父の姿に、カインは先ほど命を奪われてしまったザーギンの顔を見て、ビックリしてしまう。
「何を遊んでいるんだ?」
ザーギンは剣道場の面ピットや竹刀を片付け終えていない二人の様子を見て、深いため息をつく。
「いや、自主レンです」
「う、うん。そうそう。練習は大事!」
二人はそう言いながら、剣道場の出入り口に向かってたじろいでいく。
「二人とも練習は大事だが、剣道場を汚したままにするのはどうかと思うのだが……」
ザーギンの目がギラリと光り、にらみつけられるのを確認すると、二人は一目散にその場から逃げるように剣道場を後にする。
「ごめんなさい!」
二人は「はぁはぁ」と、息を切らしながら、小さな泉「ジオニクス」の前で少し休憩する。水を頭からかぶると、泉の水をごくごくと飲んだ。
「ヤバかったな。ハザード」
「カイン。僕たちの腕もまだまだ上達してないのかな?」
カインは顔を洗うと、「プハー」と声を出した。
「バカ言うなよ。力はついてるさ。ただ、ザーギンさんは強すぎる。まぁ俺らの師範だし、ハザードの父さんだ。強くて当然! 認めてもらうまで頑張るだけだ!」
カインの言葉にハザードはまだ認めてもらえない自分の剣術の実力に少し不安というよりも嫌気がさしていた。
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