ラストエピソード お題『1400字』
「お綺麗ですね、ねえ、俺と一緒に……」
柔和に笑って女性の手に自分の手を重ねようとする美青年。
「あーっ! あんたまた……!!!」
声を上げると、男はぱっとこちらを振り向いて、焦った顔をした。その綺麗な女性を断ってから、そいつは私の方に駆けてきた。
「さ、さよさん、珍しいね、こんなとこに」
「悪かったわね、邪魔したみたいで!」
ほっぺをぐにいっと引っ張ると、そいつ……年下チャラ彼氏のほむらは痛そうにしながらも、ばつが悪そうに眉を下げた。
「いひゃい、いひゃいえふ!」
「ごめんなさいは!?」
「ごめ……! ごめんなさっ……!」
ほっぺを離してやると、ほむらはほっぺを両手で抑えながら、恨めしそうにこっちを見てくる。その目にむっとして睨み返すと、ほむらはびくっとして縮こまった。
ほむらこと
「俺は浮気性だから、小夜さんだけってのは無理だと思う」
とシッカリ言質をとられた。まあ実際、こんなドアホでも私はこいつのことが大好きだ。顔が好みだし、行き当たりばったりの世間話にいくらでも付き合ってくれるし、褒めてくれるし、家に帰ってきたらご飯を作ってくれている……というまめな男だったり、そうじゃなかったりする。客観的に見ればダメな恋。でも私にとっては彼だけが優勝だ。まだ幼いけど、細やかで優しい子なんだ。
私は私の好きな人を堂々と愛せるだけで十分だ。ほむが私をどう思ってるか、本当のところはよく分からないけど。でも、やっぱり私はほむらのことを信じていたい。
***
たくさんの女性と関係を持ってきた俺が、初めて真面目にオツキアイをしているのは、今しがた俺のほっぺを猛烈に引っ張っていじめてきた
もっと不思議なのは、俺がさよさんと真面目に付き合っていることだ。
そんな彼女とどうしてここまで長続きしてるのか。きっかけは、彼女が俺に一目惚れしたと言って、出会って数週間で告白してきたこと。遊びまくりだった俺は、どうせ遊びだろうと思って、浮気する前提みたいな承諾をしたのに、彼女は俺が戸惑うくらい一途だった。大切にしてくれて、可愛がってくれて。離婚再婚を繰り返す親のもとで育った俺には、さよさんがどうしてここまで俺を大事にしてくれるのか分からなかった。何か目的があるんじゃないか、裏があるんじゃないかと……思ってしまう。
「どうして信じるの。どうせまた浮気するよ、俺」
ぽつりと溢れた言葉は、ずっと頭に住み着いていた疑問だった。俺が俯くと、さよさんは俺の顔を両手で包んで上げさせ、目を合わせた。そして、
「好きになった男ひとり信じられないくらいなら、捨てられて泣いた方がまし」
愛してるわ、とはっきりと言い切った。言葉を失った。彼女を抱きしめた。愛しかった。ああ、この人しかいないなあと心から思った。
初めて、彼女のことが分かった気がした。
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