第13話 青嵐の章(コーネリア改編ルート)
★ウィリアムルート★
留学の話が出ていきようようと船に乗ったはいいが、途中で船体の一部に亀裂が入り難破しかける。
水魔法を使い、亀裂を覆うように水を固定させることでなんとかもたせながらグランディアまで到着することに成功する。
だが、安心した瞬間、魔力切れが原因だろう。船が沈む中、慌てて周りの人に抱えられる光景を見たのを最後に私は倒れた。
目が覚めるとベッドに寝かされていた。
どうやら誰かが運んでくれたらしい。一緒の船に乗っていた船員だろうか。
しかし、ここはどこだろう。そう思っていると扉が開く。
使用人らしき人が入ってきて、こちらを見て目を見開く。
そして、ここで待っていて欲しいと懇願するとそのままものすごい勢いで駆けて行った。
なんなんなのだろうか。事情が聞きたかったのだが。
手持無沙汰になりつつも、あの様相では出るのも可哀想だと思い部屋で時間を潰す。
しばらく待っていると再びドアが開いた。そこには、見慣れた姿が立っていた。
なぜここにいるのかは分からないが。
「ウィリアム?どうしてここに?」
「ここは僕の実家の拠点の一つだからね」
なるほど、彼の家は諜報分野に秀でている。様々なところに隠れた拠点を持つらしいとは聞いていたがやはり実際にあったようだ。
「なるほどね。ところで、ここはグランディアなのよね?」
「そうだよ。ここは学術都市グランディア。君の船が沈没したと聞いた時は関係する場所を全て探すつもりだったけど、陸にはついていたみたいで安心したよ」
よかった。最後らへんは意識も朦朧としていたし本当にギリギリだったのだ。
私が生きているということは船員たちも無事なはずだ。だったらそろそろ留学に来た本分を果たさせてもらおう。
なんでもここは蒸気機関らしきものがあるらしくそれを聞いた私はとても興味が惹かれた。
私は前期、アリアちゃんは後期という形で何とか枠を分けて貰ったのだ。ここは本当に閉鎖的で通常のルートでは入国審査がとても厳しいらしい。それこそ有力な貴族でも一年待たされるのがざらなのだとか。
限られた短い時間だ。存分に堪能させてもらおう。
「グランディアにいるならよかったわ。世話してくれてありがとう。でも、もう大丈夫よ。専用の寮も用意されてるらしいしそちらに行くことにする。荷物が残ってたら置いてある場所を教えて貰える?」
とりあえず、すぐさま外に出て色々と見たい。逸る気持ちを抑えながら、残っているかはわからないが荷物があるかを聞く。
まあ、無いなら無いでかまわない。また買えばいいし、最悪一着を洗濯して使ってもいい。
「それはダメだよ。君は帰るんだ。僕と一緒にね」
彼は何を言ってるのだろう。留学の話は彼も知っていたはずだが。
「何を言ってるの?貴方も私は留学に来たって知ってたわよね」
「ああ、当然知ってる」
いつもの彼らしくない。どこか変な感じだ。
「だったらまだ帰れないのわかるでしょ。とりあえず早く色々見たいの。感謝はしてるけど、それは後できっちり返すから今日はそろそろ行くわ」
「いや、ダメだ」
いや、本当になんなんだ。いつもは絡んでくることはあっても私があまりかまう気が無いときはすぐに引いていたのに。
「さすがに怒るわよ?この旅行も国の費用が使われているの。私的な旅行とは違う」
「それでもだ。君は僕と帰るんだ」
明確な意志を持った瞳がこちらをじっと見つめている。冗談を言っている雰囲気はない。
彼は、視線をそのままに私に向かって話しかけた。
「君の船が沈没したと聞いて、正直気が気じゃなくなったよ。気づいたら僕は船に乗っていて、ここにいた。そして、君が無事な姿を見てこれ以上ないくらいに安堵した。
こんなことは初めてなんだ。何かに縛られる、捉われることは一切無いと思ってた。体が勝手に動いていたなんてのはかつてない感覚だったよ。でも、不思議と嫌な気分じゃなかった。」
「僕は思った。君を自分の見える位置に置いておかなきゃいけないと。だから、君を連れて帰る。二度とこんなことが無いように、何かあってもすぐ手の届く距離に置いておくために」
「もう船は準備できている。今すぐ僕と帰るんだ、コーネリア」
ウィリアムはこちらに手を伸ばし、私の腕を取ろうとする。
だが、その手を私は叩き落とした。手を引っ込め驚いた顔をする彼。
いや、驚いてるのはこっちのほうなんだけど。突然の過保護とかキャラがブレ過ぎよ。
「ふざけないで。私は帰らない、絶対に。私は私の意志を曲げるつもりは絶対に無いわ。それが正しいと思っている限りは」
ウィリアムは少し険しい顔をすると、こちらを睨む。
「僕も自分の考えを曲げる気はないよ。そうやって今まで生きてきた。だから、少し手荒になったとしても君を抱えていく」
彼が少し魔力を込める。だが、私も本気だ。何が何でも抵抗する。命を奪い合うつもりは無いが、怪我くらいは覚悟してもらわなくちゃいけない。
「嫌よ。もう一度言う、私は帰らない、絶対に。帰るのはちゃんと私のすべきことをしてからよ。そして、貴方がそう来るなら私も全力で抵抗する。怪我も覚悟して頂戴。
もし無理やり連れ帰られたとしても何度でも私は暴れるわ。それに二度と貴方に近づかない、口を聞かない」
全力で魔力を練る。全快してはいないようだが、そんなの関係ない。
この狭い部屋なら一瞬で水を満たせる。その隙に窓から逃げるのだ。窓枠には格子の類が無いことは既に確認していた。後は外に出てから考える。
私が本気で逃げようとしていることが分かったのだろう。しばらく睨み合ったが、彼は上を向いた後ため息を吐き、魔力を散らせた。
「君は僕の自由にはなってくれないんだね。分かってはいたけど、本当に頑固者だ、君は」
珍しく苦笑するような表情で彼は言うが、何を当たり前のことを言っているのだろう。
「当たり前でしょ?私は貴方に好きにしていいと言ったけど、それは私も好きにするからよ。
だから、自分に関わることは貴方の勝手ばかり通すつもりは無い。人はお互いに譲り合って生きていくの。次からは私が納得できるように貴方も何かしら考えなさい」
彼は別に人の気持ちが分からないわけではない。当然だ、諜報は人の心を把握できなければ成り立たない。それができないものが次期当主候補としていられるはずがないのだから。ただ、普段はそこに目を向けていないだけなのだ。
彼はキョトンとした顔の後、笑い出した。
最初は微かに、そして、声を出して、最後には腹を抱えて笑った。
ようやく笑いが収まったらしい。
ウィリアムはこちらを不敵な眼差しで見つめてくる。
そして、不意に近づくと撫でるような口づけをした。
「そうだね、僕が悪かったよ。僕もちゃんと考える。どうしたら風に乗れるかをね。
次があるなら、きっともっとうまくできるはずだから」
突然の出来事に唖然とした私は、去っていく彼の背を見ながら、思わず自分の唇に手を触れていた。
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