253:ちょっと気不味い
「ねぇ優希くん、本当に何でも良かったの?」
「はい! 大体何でもいけるので大丈夫ですよ!」
車を走らせながら薫さんが僕にそう聞いて来たから、僕は素直にそれに答える。
正直僕としてはうどんとかそんなのでも全然大丈夫なんだけどね。
だから僕としては薫さんが好きな物を食べてくれれば良いな、なんて思いながら景色を見ていた。
「あっ、そうだ!」
薫さんは良い場所を思い付いたのか、良い顔をしながら僕に言った。
「優希くんって夜景とか好き?」
「すっ、好きです⋯⋯」
僕が薫さんの事を好きかどうかを聞かれたような気分になって一瞬ドキッとしたけれど、夜景を見るのは好き⋯⋯だからそう返した。
「そっか、じゃあ四日市行かない?」
四日市は名古屋からおおよそ1時間ほど車を走らせた場所にある。
あと、とんてきなんかも有名だよね。
「良いですよ! でもどうせなら⋯⋯」
「「四日市とんてき!」」
僕達は声を揃えてそう言った。
「ふふっ、考える事は一緒だったね」
「そ、そうですね!」
「じゃあ先にとんてき目指していこっか!」
「はい!」
まだ少しドキドキとするけれど、いつものようの話せたのもあってか少し落ち着いて来た。
四日市に到着すると、薫さんは一度コンビニに寄り、飲み物を買うとついでに良いお店が無いかを車の中で調べ始めた。
「うん、評判的にもここが良いかも」
そう言って僕にスマホの画面を見せてくれたんだけど、確かに美味しそう。
「確かに良さそうですね!」
「じゃ、ここに向かうね!」
「はい! お願いします!」
そして到着したお店で四日市とんてきを注文すると、香ばしく焼き上げられたとんてきが運ばれて来た。
にんにくの香りが香る濃厚なソースと豚肉の相性は最高でご飯がモリモリと進んでいく。
あっという間に食べ終えた僕達は再び車に乗る。
「それじゃ、帰る前にあの有名な四日市コンビナートに寄ってから帰ろっか!」
「はい!」
そして薫さんは車を走らせると、四日市コンビナートへ向かい始めた。
♢
「優希くん、もうすぐ着くよ」
私がそう声をかけると、優希くんは隣でぐっすりと眠ってしまっていた。
「あっ、あれ? 寝ちゃったのかな?」
少し不安になった私はコンビナート近くのコンビニに一度車を停めると、優希くんの様子を確認した。
「あっ、可愛い顔して寝てる⋯⋯」
気持ちよさそうな顔をして眠っている優希くん、その顔を見るだけで心のエネルギーが充填されるそんな気がしてくる。
「はぁ、このまま連れて帰りたいくらい可愛いな⋯⋯」
そうしたら家で沢山可愛がってあげられるのに⋯⋯
って変な意味じゃないからね?
「可愛い服着させてあげたり、一杯甘えさせてあげたり、なんか優希くんには何でもしてあげたくなっちゃう⋯⋯本当、不思議⋯⋯」
今までそんな事思った事も無かったのに、私ってば本当どうしちゃったんだろうね。
「今はもう少し、優希くんの顔を眺めていようかな」
連れて帰るのは問題もありそうだから絶対しないけど、寝顔を見るくらいは良いよね?
♢
「んっ⋯⋯」
ふと気が付くと、僕の顔の前に薫さんの顔があった。
「⋯⋯か、かおるさん?」
「優希くん起きたんだね良かった」
「僕寝ちゃってました⋯⋯?」
「行動の開始が早かったし、その、仕方ないよ」
「もしかしてもう帰ってる感じですか?」
「ううん、折角だから優希くんの寝顔を見て⋯⋯じゃなくて、まだ四日市コンビナートの近くのコンビニだよ」
「どれくらい寝ちゃってましたか⋯⋯?」
「まだそんなに時間経ってないから気にしないで大丈夫だよ」
「なら良かったです⋯⋯」
「まだ少し眠いかな?」
「ちょっと眠いですけど、少し目が覚めてきました⋯⋯」
「じゃあ眠くないうちにコンビナート見に行こっか?」
「はい!」
そして薫さんは再び車を走らせた。
「(お、起きた時、薫さんの顔が目の前にあって物凄くドキドキしちゃった⋯⋯)」
薫さんには言えないけど、一瞬、その、キスされたのかと思って凄く焦っちゃった。
さ、流石に薫さんがそんな事する訳ない⋯⋯よね。
そしてそんな事を考えていると、やけに明るい場所が見え始めた。
「やっぱりいつ通ってもここは綺麗だね」
「この光の殆どが工場なんでしたっけ?」
「そうそう、この辺りは沢山あるからね」
「この辺り全部キラキラで凄く綺麗です⋯⋯」
「本当だね⋯⋯運転してるのに視線がそっちに向いちゃいそう⋯⋯気を付けないと」
綺麗と言う言葉以外全く出てこないけれど、この景色は本当に綺麗。
「折角だし、四日市ドームの方に停めて少し見てから帰ろっか」
「はい!」
そして四日市ドームの駐車場に車を停めると、公園からコンビナートを見られる位置に向かって歩き始めた。
「⋯⋯」
「⋯⋯」
この間僕と薫さんは言葉を発さなかった。
夜景に心奪われたとか、そう言うのじゃない。
「「(ま、周りにカップルばっかりだああああああ!!!!)」」
そう、ここはそれなりに有名なデートスポット。
つまり、恋人同士でイチャイチャする人なんかも結構居るわけで。
「「(す、凄く気まずい!)」」
「か、薫さ「優希くん!」」
「あ、薫さんからど、どうぞ⋯⋯」
「ゆ、優希くんからで大丈夫だよ!?」
「え、えっと、その、場所、少し変えませんか⋯⋯?」
「う、うん」
そして恋人達が沢山いた場所から逃げる様に移動した僕達は、ひっそりとコンビナートを見ていた。
「はぁ⋯⋯」
「どうかしましたか?」
「ちょ、ちょっと場違いだったかなって⋯⋯」
「ぼ、僕もちょっと居辛かったです⋯⋯こ、恋人とかだったらそう思わないのかもですけど⋯⋯」
「恋人、かぁ」
「(優希くんはHaruさんとはどうなんだろう。
まだ、好きなのかな?)」
「僕にはまだ早いと思ってますけど⋯⋯」
「じゃ、じゃあ⋯⋯」
「じゃあ?」
「う、ううん。 な、なんでもないよ」
勢いで優希くんが好きだって言うのは出来る。
だけど、それで関係が壊れたらと思うと怖くて言えない。
華さんみたいなフレンドリーさが欲しいと思ってしまう。
⋯⋯いやでもあそこまで行くと逆に嫌われちゃうかな?
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