198:マイクを買おう!
学校の帰り道、僕は予定通りに駅前にある家電量販店へとやって来た。
「よし、今日はマイクを見ないと!」
お店に入った僕は意気揚々とマイクの売り場のある階へと向かった。
「相変わらず凄い種類⋯⋯」
マイクの売り場へ到着した僕はやっぱりその種類の多さに圧倒される。
「でも今日は僕も知らないジャンルへの挑戦だから右も左も分からない状態だし、何を選べば良いのかな?」
歌ってみたの動画の為のマイクを購入するために来たお店だけど、どんなマイクが歌ってみたに合っているのか僕には分からない。
店員さんに聞いたりした方がいいのかな?
でも、なんだかそういうのを聞くのって少し恥ずかしい。
「ううん、考え込んでも意味が無いし店員さんに聞いてみようかな⋯⋯いやでもスマホで調べればいいか⋯⋯」
そんな事を考えてるうちに恥ずかしい気持ちが強くなってしまった僕は結局スマホで調べる事にした。
「えっと、コンデンサマイクとダイナミックマイク⋯⋯ダイナミックマイクって言うのがカラオケみたいなやつなんだ⋯⋯」
「こっちは僕も持ってるやつだし、試しにコンデンサマイクって言うのを買ってみようかな?」
そんな風にスマホをチラチラと見ながら物色していると突然声をかけられた。
「優希くん、久しぶりなの」
「ふぇっ!? な、あ、綾乃さん!?」
「名前覚えててくれて嬉しいの」
「そ、それにしても突然声をかけられたからビックリしました⋯⋯」
「驚かせてごめんなの。
ただ凄い迷ってるみたいだったからちょっと気になって声をかけたの」
「あ、ありがとうございます⋯⋯それにしてもどうしてここに綾乃さんが⋯⋯?」
「今日は美容院に行く日だったからさっきまで美容院に行ってたの。
それでどうせだから新作ゲームでも見ようかなーと思ってたんだけど、エスカレーターから迷ってる優希くんの姿が見えたからもしかしてと思ってこっちに戻って来たの」
「凄い偶然ですね⋯⋯」
「ぼくもそう思うの」
声をかけて来たのはまさかのなのさんこと綾乃さん。
華さんとも仲が良くて何かと一緒にゲームを遊んだりする事もある人なんだけど⋯⋯実は華さんよりも凄い人でチャンネル登録者はいまなんじの中でもトップに入るほどの人。
ただ僕の記憶だとロリとショタが大好きなやべー人って印象が強い。
でも実際会ってみるとそんなに酷い人じゃないし結構優しいところもある。
現にこうやって声をかけてくれるんだからね!
「それでマイクとスマホを目が行ったり来たりしてたけど何を買おうとしてたの?」
「えっと、実は歌ってみた動画を上げてみようかなって思ってて⋯⋯」
「!?」
「ど、どうしたんですか!?」
「聴きたいの⋯⋯」
「へっ?」
「優希くんの歌ってみた聴きたいの⋯⋯だからぼくに任せるの!」
「え、えっと、よろしくお願いします⋯⋯?」
そんな訳でまさかの綾乃さんにマイク選びを手伝って貰える事になった。
「優希くんは録音する際に何を重視したいの?」
「何を重視⋯⋯ですか?」
「例えば、音質を重視したい、コスパを重視したいとかそんな大雑把なのでいいの」
「そうですね⋯⋯コスパの良いものは既に持ってるので音質ですかね⋯⋯?」
「音質となるとコンデンサマイクが良いと思うの」
「コンデンサマイクですか?」
「そうなの、ダイナミックマイクでも良い物買えば勿論良い音質の物は買えるの。
でもコンデンサマイクの方が音を拾いやすいって特徴があるの」
「なるほど⋯⋯」
「ちなみに優希くんの家の近くは騒音とかは多いの?」
「うちの周りはかなり静かですし、そこそこ防音性も高いので外の音は殆ど入って来ないですね!」
「ここ十年ほどの家は配信者が増えてきた影響のせいか防音性高い部屋が多いしそんなものなのなの?」
「僕は流石に詳しくないのでなんとも⋯⋯」
「それもそうなの、それじゃその中ならこの辺りがおすすめなの」
そう言ってなのさんは二つのマイクを指差した。
「これ、ですか?」
「そうなの、まず一個目、値段は抑え目のエントリーモデルと言ってもいいけど音質もそれなりなの。
価格も一万千円とそこそこ安いなの」
「うっ、それでもやっぱり良い値段しますね⋯⋯」
「ちなみに初期のふわ⋯⋯こほんっ、華はこれを使ってたの」
「なるほど⋯⋯ちなみに今のはどれを使ってるんですか?」
「それがこの二つ目なの。
値段はかなりするけど音質は指折りなの」
「値段は⋯⋯うわっ凄い⋯⋯三万二千円もするんですね⋯⋯」
「メーカーはさっきのも同じだけど、人気のオーディオテク○カなの。
ちなみにこれは二十年以上愛され続けてる逸品なの」
「に、二十年以上!?」
「それくらいこれは安定度があるって事なの」
「そうなんですね⋯⋯」
「上を目指せば十万円を超えるマイクなんてものもあるけど、流石にそれは行き過ぎなの」
「十万円は流石に⋯⋯手が出ないですね⋯⋯」
「だからこの辺りから選ぶ事をお勧めするの」
「じゃあ⋯⋯」
僕はそう言いながら手に取ったのは三万二千円する高い方のマイクだった。
「これにします」
「良い選択なの」
「綾乃さん相談に乗ってくれてありがとうございます!」
「それくらいお安い御用なの。
あっでもお礼なら受け取るの」
「な、何を⋯⋯?」
「今度なのともオフコラボをして欲しいの」
「へっ⋯⋯?」
「えええええええええ!?」
まさかすぎる展開で僕は変な声を出してしまった。
「嫌だったら気にしなくてもいいの」
「い、嫌じゃないですけど⋯⋯」
「いつやるかは優希くんに任せるの。
多分春休み中の方がいいと思うの」
「そ、そうですね⋯⋯」
「だから都合のいい日になったら教えて欲しいの!」
「わ、わかりました!」
「それじゃぼくはゲームを見て帰るのー
優希くん気を付けて帰るの」
「は、はい!ありがとうございます!
近いうちにメールおく⋯⋯そう言えば僕綾乃さんのメール知らない⋯⋯」
「あっ、忘れてたの。
ピヨッターフォローしておくからDM送るといいの」
「じゃあそうしますね!」
「楽しみに待ってるのー」
そう言いながら綾乃さんは上の階に登って行った。
「(僕がなのさんとオフコラボ⋯⋯なんだか凄い事になってきちゃったような⋯⋯)」
そんな事を思いながら僕はレジへと向かって行った。
♢
優希くんとばったり出会した夜、ぼくはふわりとVCをしながらゲームで遊んでいたの。
「そう言えばふわりに言ってなかったことがあるの」
「なのちゃん、いきなりどうしたんですかー?」
「今月中にゆかちゃんとオフコラボする事になったの」
「は?」
「いきなり声を荒らげないで欲しいの」
「ちょっと詳細後で聞かせてください」
「いや急に素の声に戻らないで欲しいの、怖いの」
そんなやりとりをした後配信が終わり、ぼくは華に説明をすることにした。
「かくかくしかじかなの」
「まるまるうまうま⋯⋯と」
「それで?遺言なら今聞きますよ?」
「ナチュラルに殺そうとしないでなの。
ぼくは華の為を思って半分無理矢理オフコラボの約束を取り付けたの」
「聞かせてもらいましょうか」
「優希くんは最近モテモテなの」
「っ、否定出来ないですね」
「そこで華に足りないものがあるの」
「足りないもの?」
「優希くんの好感度やイベントなの」
「いやそんなギャルゲーみたいに言わなくても⋯⋯」
「でも実際そうだと思うの」
「足りないって言われても私はどうすればいいのか分からないですよ?
それに男の子として好きかと言われると微妙ですし⋯⋯まぁ天使なんですけど」
「天使だからってグイグイ行かなくてどうするの」
「それは⋯⋯」
「もしお付き合いする事が出来たらあの可愛い優希くんを独り占め、しかも生きている限りずっとなの!」
「生きてる限り優希くんを独り占め⋯⋯?」
「そうなの」
「わ、私やります!!」
「ふっ、華も現金なやつなの⋯⋯」
「と言う訳でぼくと優希くんのオフコラボの時にサプライズで登場してもらうの」
「でも、良いんですか?」
「構わないの。
ぼくは華が幸せそうな顔をしてるのを見るのが好きなの」
「あ、綾乃ちゃん⋯⋯」
「ありがとうございますううううううう!!」
「(ぼくとしては華と優希くんの子供とか絶対尊いと思うからこの目で見てみたいだけなんだけどそんなこと言ったら絶対殺されるの)」
そしてなんだかいい感じの雰囲気になったまま今日の通話は終了した。
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