182:可愛いは正義?
あの場にいるのが恥ずかしくなり、薫さん達のいる部屋から逃げるように着替えに来た僕は、部屋の中で一息つくと、少し冷静になってきた。
「良く良く考えたらやっぱり断れば良かった⋯⋯なんだか超えたらいけないラインを越えちゃったような気がする⋯⋯」
そんな気がしたけど、多くの人の前で着た訳じゃ無いし、セーフだよ⋯⋯ね?
「うん、セーフ、セーフだよね⋯⋯」
自分に言い聞かせるようにそう呟いてみたけれど、似合ってるって言われたし、そんなに悪く無かったのかな?
「似合ってる⋯⋯か」
鏡に映る自分を再び見つめる僕。
そこに写っているのは、白姫ゆかの姿をした自分自身。
「⋯⋯否定出来ないなぁ」
少し自分でも可愛いんじゃ?なんて思ってしまうくらいクオリティが高い女装。
と言っても自分一人でこんなレベルを出すのは流石に無理なんだけど。
「確かに良く似合ってる、とは思うけど⋯⋯気にしたら負けだよね」
そう言うと直ぐに元の服に着替え、薫さん達の待っている部屋に戻った。
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僕が部屋に戻ると薫さんと先輩は二人で仲良く——
「尊い⋯⋯」
「も、むり⋯⋯」
死んでいた。
「先輩!? 薫さん!?」
「あら優希ちゃんおかえりなさい」
「この状況は一体何ですか!?」
「優希ちゃんの今日着た衣装、全部撮影してたのよぉ」
「えっ」
そう言われるとそんな事言ってたような気がしてくる。スタッフさんの話を恥ずかしさが強くて聞き流してたのかな?
「と言う事は⋯⋯」
「二人ともそれを見て悶絶してるってワケ」
「これ、大丈夫なんですか⋯⋯?」
「多分数分で元に戻ると思うわよ?」
苦笑いでそう言った橋本さんの言う通り、五分ほどすると二人ともこちらに戻って来た。
「は、恥ずかしい所を見せてごめんね⋯⋯」
「優希くん、わたしもごめんね⋯⋯」
「べ、別に問題は無いんですけど、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫、ちょっと尊死しかけてただけだから」
「わたしも大丈夫、ちょっと心に致命傷喰らっただけだよ!」
「尊死⋯⋯?」
「優希くんは知らなくていいよ」
「は、はい⋯⋯」
目を逸らしながらそう言った薫さん。
知らなくていいよと言われたら知りたくなるのが人の性ってものだよね。
帰ったら調べてみようかな?
「とりあえず、優希くんにお願いがあるの」
「何ですか?」
薫さんはちょっと真面目な顔でそう僕に言ったので、僕も真面目に話を聞く事にした。
「先輩とさっき話してたんだけど、今日着てもらった物を全部商品化って言うのは実際かなり難しいの」
「確かに、十着ほど着ましたけど全部商品化って相当きついですよね⋯⋯」
「と言うわけで、SNSでどれを買ってみたいかをアンケートを取ってみたいんだ」
「なるほど!直接購入したい人の声が反映されるんですね!」
「そう言う事だね、それでお願いって言うのはさっき撮影した写真を、載せたいの」
「えっ」
「勿論、水着を含めて⋯⋯ね?」
「え?えええええええええええええ!!??」
「他のは良いですけど!
水着は!水着はやめてください!!」
「どうして?あんなに似合ってたのに」
「は、恥ずかしすぎるんです!
それに流石に女物の水着着る男なんていないですよ!」
「あら、それは甘いわね優希ちゃん」
橋本さんがそれは聞き捨てならないとばかりに反論して来た。
「世の中には色々いるのよ?
自ら女物の下着を着たりする人やどうみても似合っていないにも関わらずフリフリの服を着たりする、そんな人は普通にいるものよ。
その人それぞれ、自分が似合ってると思っているのであれはそれは恥ずべき物ではないの」
「マネージャー、つまりかわいいは正義って事ですね!」
「いやそれはちょっと違う気がするのだけど、似たようなもの⋯⋯なのかしら」
「可愛いは正義⋯⋯ですか」
「うん、優希くんは可愛いから正義だよ」
先輩も薫さんもいけるいけると僕に言い続けてくる。
「そ、そこまで言うなら⋯⋯今回だけ、ですよ?」
僕が折れてしまった。
あそこまで自信満々に言われたらそうかも、って思っちゃうのは仕方ないと思うんだよね。
「うん!!!!!!」
僕がそう言うと薫さんが、まるで子供のようにとても勢い良く返事をする。
こんな薫さん初めて見るかも⋯⋯
「薫ちゃん⋯⋯?」
「あっ、いけない、またやっちゃった⋯⋯」
「「「また?」」」
「⋯⋯な、何でもないです」
薫さんは少し頬を赤く染めながらそう言った。
「と、とりあえずSNSに投稿はしてもいいんだよね、優希くん?」
「は、はい! 男に二言は無いです!」
「ふっふっふ、言ったね?」
「とりあえず、優希くんの今日の写真をピヨッターに投稿しよっか!」
「⋯⋯え? 僕のアカウントで、ですか!?」
「勿論!」
「わたし直ぐに拡散するよ?」
完全に逃げ道が塞がれてしまった僕は仕方なく、投稿する事になってしまった。
「データをまず薫ちゃんに送るわねぇー」
「ありがとうございます!
それでこれを優希くんに送って⋯⋯」
「あっ、届きました!」
「じゃあ投稿しよっか。
文はこんな感じでどうかな?」
「ハッシュタグも付けた方がいいですよ」
「アタシ、入る余地ないわね」
「僕もです⋯⋯」
そして二人の監修の元、ピヨッターに僕の写真が何枚も投稿され、夕方にはアンケートの方もスタートし、商品化される衣装が決められようとしていた。
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