27:ASMR収録!

 とうとうこの日がやってきてしまった。


 コミケに出すためのボイスの収録をする、それが今日⋯⋯とそれっぽく言ってみたけど、ただ締切がギリギリなだけなんだよね。


 ボイスを納品した後にはシリアルコードの発行が必要になるんだけど、それがほぼ手作業なんだ。


 そして今回のボイスはゆる先生のサークルの新刊セットに封入するという事になった。


 ちょうど白姫ゆかを題材にした本らしいので特典としてもなかなかいいと思う。


 僕としては出来る限り安く頒布したかったので本来の新刊セットに+五百円という値段で決定した。


 少しでも楽しんで貰えたら僕は嬉しいな。


「ふぅ、それじゃあ収録始めようっと」


 僕はエアコンなどの雑音になるものを一旦消して、意識を集中し白姫ゆかになり、収録を開始した。



『お兄ちゃん、今日もお疲れさま!』

『えっ?耳掃除?ふふーん、やっぱりハマっちゃったんだね⋯⋯』

『ボクなんかでよければいつでもやってあげるよ?』

『それじゃ、はい!ボクの膝の上に頭乗せて!』

『よく出来ました!』

『それじゃあ耳掃除、始めるよ?』


『どう?お兄ちゃん、気持ちいい?』

『ふふっ、気持ちいいんだ。幸せそうな顔しちゃってるね』

『ふー♪』

『あはっ!お兄ちゃんびくってなってるよ?』

『くすぐったかったんだ?』

『それじゃあ次は反対の耳掃除やっていくよ?反対向いてー!』

『はい!じゃこっちもやっていくね!』


『ちょっと!動いたら危ないよお兄ちゃん!』

『⋯⋯よし!これで大丈夫かな!』

『あっ!そうだ忘れてた!』

『ふー♪』

『あははっ!またお兄ちゃんびくってなってる!なんか可愛いかも?』

『なんてね♪』



『お姉ちゃんー起きてー!』

『むぅ⋯⋯』

『おーきーてー!遅刻しちゃうよー!』

『もう⋯⋯こうなったら⋯⋯』

『おねーちゃん、起きないと⋯⋯』

『ふー♪』

『起きた?もうお姉ちゃん本当お耳弱いんだから!』

『まさかボクに耳をふーってされたくてわざとやってるってワケ⋯⋯無いよね?』


 他にもボイスは何個か収録されていて、そのどれもが聞くだけでゾクゾクと来るような物ばかりだった。


 このボイスのせいで多くのリス兄、リス姉は死んでいく事が容易に想像出来る。



 収録がある程度終わり素に戻った僕は収録した音声のチェックをしていた。


「も、問題はない⋯⋯けど自分の声のASMR聴くのはちょっと⋯⋯SAN値が⋯⋯」

「うん、でも違和感は無いかな?」

 折角だし薫さんにも聴いてもらって改善点が無いか聞いてみよう。


 連絡を取るために僕はVCを起動して薫さんにメッセージを送った。


♢(柿崎ゆる視点)


 私がコミケ前の追い込みを始め、作業をしているとVCのアプリからメッセージが届いたと通知があった。


「ん?優希くんから?」


「なるほど、収録したのはいいけど自分だけでは判断が出来ないから聴いて欲しいって事なんだ」

 私は勿論大丈夫だと返信した。


 すると十分ほどするとファイルが優希くんから送られてきた。


 作業用のPCに影響するといけないのでサブのノートPCにデータをダウンロードする。


 私はそのデータをスマホに転送してイヤホンで聴きながら作業をする事にした。


「ぉぉぉぉぉぉぉぉ⋯⋯⋯⋯」

 作業どころじゃなかった。

 耳にふーっと息を吹きかけるシーンが大量でそのシーンのたびに私の身体がびくびくと震えた。


 正直どれくらい経ったのかすらもう私の記憶には無い。


「お姉ちゃん、夜ご飯できたよーってどうしたのお姉ちゃん!?」

「ぇ?もぅょる!?」

 


「お姉ちゃん、発音変だよ!?」

 私はデータの入っているスマホを由良に渡しご飯を食べた。


 あれを五百円で売るとか優希くんは正気なのかな⋯⋯?


 そして寝る前に由良の部屋に行ったら布団の中でこれから聴こうとしている由良を見つけた。


 さぁ由良も死ぬがよいのだ。


 私は感想を優希くんに送り自分の部屋で眠りについた。

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