コスプレで大変身!?
15:過去の二人
わたしの名前は一ノ
学校では地味な格好をしているけど、歴としたモデル。
いつもモデルの仕事をする際は事務所から迎えがやってくる。
それが授業が終わってから約一時間後。
私はその一時間をここ、文芸部の部室で過ごしている。
そして、この学校においての文芸部とは実質的な帰宅部で、この部室を訪れる人はいない。
⋯⋯いや、いなかったと言うのが正しいかな
二ヶ月半ほど前までは。
二ヶ月半ほど前にはこの部室にはもう一人の生徒がいた。
わたしの後輩でもある小さな背の男の子。
女の子のような容姿や声をしていて初めはびっくりしたっけ。
そんな彼とは去年の春に出会った。
文芸部に入部した彼は律儀にも部活動に参加した⋯⋯といっても本を読むだけで先生も来なくて、ただの時間潰しをしていたっけ。
最初は真面目に本を読んでいたけど意気投合したわたしたちは趣味について語り合ったりしていた。
他に本を読む人もいなくて、どれだけ騒いでも怒られなかった。
楽しかった。
勉強にモデルの仕事、家でもやりたい事なんてやる時間もあまり無い。
そんなわたしの唯一の心の拠り所だった。
でも、そんな日常はふとした拍子に崩れ去っていった。
それは今年の春頃、放課後になった瞬間の出来事だった。
普段鳴らない時間にわたしのスマホから通話を知らせる音が鳴り響いた。
「もしもし、遥です」
『ごめんね遥ちゃん!今日急に今から出て来れないかって話になっちゃって迎えを寄越したから来てくれないかしら!』
電話の相手は事務所のマネージャーだった。
「はぁ、まぁいいですけど⋯⋯平日はやりたい事もあるのでこれからはあまり無いようにしてくださいね?」
『本当にごめんなさいね!もう着くらしいからよろしく頼むわね!』
「はい、分かりました」
そして仕方なく校門まで行くといつもの迎えの人と違う人が迎えに来ていた。
「遥ちゃん急にごめんね?」
今日の人はノリの軽い若い人だった。
悪い人じゃないのは仕事を何度もしているので知っているけれど、若い人だといらぬ誤解を生みかねないからやめて欲しかった。
迎えに来てもらっている手前そんなことは言えないけど。
「いえ、大丈夫ですよ」
わたしは少し微笑み車に乗る。
「それじゃあまずいつも通り家に行くからね」
「すみません、お願いします」
そしてその日以降、彼が部室に現れる事はなかった。
わたしはまた、一人孤独に部室で本を読む事になる。
「はぁ、何があったんだろう、また一緒に話したいな」
♢(優希くん視点)
「あわわわわわ」
僕は先輩がカッコイイ男の人に迎えに来てもらっている所を見てしまった。
部活に行く前に裕翔に渡し忘れたものがあったから渡しに行こうとしたときにそれを見てしまい、僕は先輩に彼氏が居るんじゃないかと思った。
「どうかしたの君?」
全く知らない女生徒があたふたしている僕に話しかけてくれた。
「あ、あのあの、あの人って一体⋯⋯」
「んー?あれって一ノ瀬さんだよね?彼氏じゃないのかな?いつも部活後に迎えが来てるって私聞いたけどいいよねぇああいう彼氏、憧れるなぁー」
「か、彼氏ですか⋯⋯やっぱそうなんだ⋯⋯」
「えっ?大丈夫!?ねえ!?」
僕はあまりのショックにその場を走って立ち去ってしまった。
裕翔に物だけ渡して僕はすぐに家に帰り、枕を濡らした。
それから先輩を見ると寂しい気持ちになってしまいそうで部室には行かなくなってしまった。
それから二ヶ月半後に僕はVtuberを始める事になり、現在に至る。
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